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僕らに吹く風に揺れる花  作者: ヨハン
引き寄せられる春
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昼休みとか一人とか

 --キーンコーン……

 昼休みに入るチャイムが鳴る。俺達は机を並べて昼食の準備を始める。

 他のクラスメイトは購買に走っていく者や中庭などの教室外に行く者がほとんどで、残ったのは俺と風花と久代、それに清川と野上。他に数名の名前もまだ覚えていないクラスメイトだった。

 俺は鞄から弁当の包みを二つ取り出し、一つを風花に差し出した。

 

「ほら」


「ありがとうハル君! これさえあれば今年も元気に過ごせるよ!」


 風花は満面の笑みを浮かべた。そんな笑顔を向けられると作る甲斐があるというものだ。

 彼女の家は両親が二人とも朝が早い。よって弁当は風花自身で作らなければいけないのだが……


「風花……料理苦手だからな……」


 俺は苦笑いしながら言った。

 そう、彼女は料理が苦手なのだ。中学生になり弁当を持ってくる環境に身を置かれた初日。彼女の持ってきた弁当は悲惨たるものだった。卵焼きは焦げてぐちゃぐちゃ、タコウインナーはばらばら、その他のおかずも例に漏れず。

 それを見かねた俺は次の日から彼女の分も弁当を作るようにした。


「ハル君の料理が凄く美味しいからいいんだよ!」


「それはどうも」


 ここまでストレートだと逆に照れるな。


「そうそう、ハルっちの作るおかずはどれも絶品なんだよなー」


「そうなの? 凄いね春斗君!」


「料理上手な高校生男子か、まるでどこかのゲームの主人公みたいだね」


 と久代、清川、野上が順に言った。


「それにしても、僕らは馴染むのが早い気がするね」


 野上は弁当を食べながら思い出したように言った。


「皆仲が良ければそれはいいことだよ!」


「そうだね、あははっ」


 楽しそうに言った風花に清川が笑顔で賛同する。

 この二人はタイプが似てるようだ。


「風花も陽菜も早速意気投合してるなー……ハルっち、風花が取られちゃうぞ?」


 久代が冗談交じりに言ってくる。というか冗談だろう。


「はいはい」


「大丈夫だよハル君、お弁当をくれれば懐くから」


「犬かお前は」

 

 すかさずツッコミを入れる。

 いや、犬でももう少し賢いこと考えそうなものだが。


「犬じゃないよ? 私はハル君の嫁ですっ」


「餌付けすれば懐く嫁はいりません」


「そんなぁ!?」


 さらっととんでもないこと言うなよ、と思いつつポーカーフェイスを装って返す。

 風花は涙目で衝撃を受けたようなリアクション。


「じゃあ私は春斗君の愛人にでもなる! お弁当付きで!」


「清川も便乗するなよ……てかどうしてこんな状況に……」


「この状況、日高が全ての原因だろうけどねぇ」


「え、俺?」


「うんうん」


「なんでだよ?」


「それは秘密」


 爽やかに笑う野上。絶対こいつ楽しんでる、この状況見て楽しんでる。

 困った俺は久代に助けを求めるように視線を送る。


「……」


 久代は親指を立てて口元を少し緩ませた。あなたもですか。


「はぁ……とりあえず飲み物でも買ってくるよ」


 そう言って俺は席を立ち、その場から逃げるように教室を後にした。







 教室に戻ると、風花が定位置にいなかった。教室を見回すとすぐ見つかった。

 自分の席で、一人で昼食を取っていた女子に話しかけていた。

 俺は近づいて声をかける。


「何してるんだ?」


「一緒にお弁当食べない? って誘ってたんだよ」


「そうか」


 俺は誘われている女子を見る。ややつり目だがかなり整った容姿、知的な顔つきで笑えばかなり魅力的だろう。そう思えるような美少女がそこにはいた。

 何故か不機嫌そうな顔をしているが。


「……しつこい」


「あっ」


 その女子はそう言って席を立ち、教室を出て行ってしまった。風花が小さな声を漏らす。

 俺はその後ろを追いかける。

 廊下に出てすぐに俺はその女子に声をかけた。


「あ、あのさ」


「? なんだ」


「え……えと、気を悪くしちゃったならごめんな」

 

 ややつり目の目から繰り出される鋭い目線。

 俺は少し背筋に冷たいものを感じた。


「あぁ、そういうことか……何故お前が謝ってるんだ?」


「え?」


「お前は別に私を誘ってなんかいないだろう?」


「それはそうだけど……風花がしつこく誘ってたみたいだったし」


 そういえば俺はなんで謝ってるんだ?

 風花のしたことをまるで自分がしたように思ってしまっているのだろうか。


「変な奴だな……」


「自覚はあるけど」


「正直、そういうのは嫌いだ」


「そうか?」


「他人のために頭を下げるなんて私には理解出来ない。社会人ならまだしも、高校生が……だからな」


「いや……なんつーかな……」


「助け合いだとか、仲良くだとか、そんな言葉を安易に口にする人間にロクな奴なんていない。というか私は助け合いなんて言葉自体、偽善にしか思えない」


「っ……何かあったのか? そんなこと言ったら社会を敵に回すと思うぞ」


 社会に出れば人とのつながりや助け合いは大事なものだと思うんだがな。

 彼女の言動からはそういうのが嫌いな様子が伝わる。


「別に。少なくともお前に話す気はない」


 きっぱりと言い切って彼女は踵を返した。


「あっ、ちょっ……」


「まだ何かあるのか?」


「いや……そうだな。とりあえず、明日から俺らと一緒に昼飯食べないか?」


「お前……私の言動から分からないのか?」


「……」


 うすうす気づいてはいるんだけど。

 高校では中学の時のような生活はしたくない。人間関係が浅く、つまらない時間を過ごしたくない。どうせなら色々な人と関わりたい。だから、僅かな希望を持ってそう言った。 

 それに、風花は純粋だからか人を見る目がある。

 そんな風花が声をかけたということは、少なくとも彼女だって悪い人間ではないと思う。

 しかし、俺の希望はすぐに打ち砕かれた。


「私は他人と関わるのが苦手……というか嫌いなんだ。一人でいるのが一番落ち着く」


「そうなのか……まぁ、それもいいんじゃないか」


「む……簡単に折れるんだな」


「ここで粘ってもきっと良い返事はくれないだろ?」


「ふん……分かってるじゃないか」


「それとも、本当は粘って欲しかったか?」


「いや、それはないな。ただ簡単に折れるのは気に入らない」


「……案外厄介な性格してるんだな、君は」


「そんな奴に関わってるお前も相当な物好きだな」


 そう言って、少し俺を見下したように笑う。


「結構慣れてるからな」


 風花を筆頭に久代や妹のリン、あと清川や野上のことを思い出す。


「ふん……もう私は行くぞ」 


「あ、そうだ」


「今はもう話しかけるな」


「しばらくしたらまた話しかけてもいいか?」


「……好きにしろ。だから今はもう話しかけるな」


「俺は日高春斗だ。えっと、君の名前は」


「私は氷室沙夜(ひむろ さや)だ! もう話しかけるな!」


 そう言って氷室は走り出していってしまった。

 最初はキツい性格かと思ったけど……思ったとおりだった。ただ、悪い奴ではなさそうだな。

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