クラスとか出会いとか
「ふぅ……」
俺は教室に入り、黒板に張り出された座席表を見る。
窓側で後ろの方の席だった。俺はその席に座り机に突っ伏す。
久代から追いかけられて俺の体力は大きく削られた。
「ハル君大丈夫?」
「ん……なんとか」
顔を上げるとそこには風花がいた。久代の姿は見当たらない。
「あれ、久代は?」
「お手洗いに行ったよ」
「そうか」
あいつが帰ってきたら俺に絡んでくる未来、脳内再生余裕だった。
「そういや風花の席は?」
「えっとねー、ここ」
風花はそう言って俺の斜め前の席に座った。
「また近いな」
「そうだね」
お互いに笑い合う。こんな状況にはもう慣れているしな。
「たっだいまー、久代結、ただいま帰りましたー」
「あ、おかえりー」
「相変わらず騒がしいな」
「それが私の長所なのだよ」
「そして短所だよな」
人差し指をこちらに向けて高らかに言い放った久代に対し、俺は間髪を容れずに返す。
「ハルっちはどうしても私をからかいたいのかな? ん?」
久代がニコニコ笑顔で迫ってくる。その笑顔には殺意とか憎しみとか、その他もろもろの負の感情が込められているように思う。
「まぁまぁ二人とも」
結局風花が仲裁に入りその場は収まった。
「それではこれから体育館に移動してください」
名前も知らない女性教師が教室にやってきてそう言った。クラスの人間はそれに従いぞろぞろと教室を出る。
俺は一旦お手洗いに向かった。
用を済ませると廊下はがらんとしていた。もう皆行ってしまったようだ。
「体育館は確かあっちだっけ」
特に急ぐでもなく、普通の速さで歩く。
すると。
「ん?」
数m先には女子生徒がいた。なんだかきょろきょろ辺りを見回している。
こちらの存在に気がつくと駆け寄ってきた。
「あの……っ」
「ん?」
駆け寄ってきたのは幼い顔立ちで少し背の低い女子だった。それでも出る所は出てるけど。
美少女、下手したら美幼女ともいえるその女子生徒は、よく見たら隣の席の子だった。
彼女は上目遣い(身長差的に自然とこうなった)で尋ねてくる。
「体育館ってどうやって行ったら……?」
どうやら行き方が分からないようだった。
「あー、確かこっち。一緒に行こうか」
たかが体育館への行き方が分からない程度のことなのだが、彼女は物凄く不安そうな顔をしていた。
少しでも安心してくれたらいいと思って、俺は微笑んでそう言った。
「っ……うん!」
元気よく返事を返す彼女の笑顔は、純粋で無邪気で輝いている。そう思えるくらいの笑顔だった。
無事始業式が終わり、最初の学級活動。
まずは近くの席の人と自己紹介をし合うらしい。こんな小学校や中学校みたいなこと、高校でもするのかとちょっと驚きだった。
とりあえず隣の席を見る。
「俺は日高春斗、よろしく」
手短かつ簡易に挨拶をする。
「春斗君か……さっきはありがとう。凄く助かったよ!」
「大したことじゃないよ、えっと……名前は」
「あ、ごめんごめん。私は清川陽菜っていうんだ。よろしくね、春斗君」
やっぱりこの子の笑顔は凄く可愛い。思わずドキッとしてしまった。
「ハル君、ちょっと照れてる?」
「そんなことはないけど」
風花が尋ねてきた。相変わらず時々鋭いな。
「なんだか楽しそうな人達だねぇ」
そう言ったのは風花の隣の席、つまり俺の前の席の男子だった。
「あ、僕は野上誠也。呼び方はテキトーでいいよ。よろしく、日高君」
「あぁ、俺は日高春斗だ、よろしく。それと君はいらないぞ」
「そうかい? じゃあ日高」
「それでいいよ」
新しいクラスメイトが嫌な奴だったらどうしようかと思ったが、清川も野上も性格が良さそうだ。
俺は少し安堵した。
「楽しそうなクラスだね、ここは」
「そうだな」
野上は穏やかに微笑んで言った。
その目にはワイワイと騒がしいクラスが映っている。
「まぁ、よろしく頼むよ、日高」
「あぁ」
「おぉ、早速男の子の友情が芽生えてる」
「じゃあ私達は女の子の友情を芽生えさせようよっ」
何気に風花と清川も仲良くなっていた。
なんだか新学期早々順調過ぎる気がするが、まぁそれも気にしなければそこまでだろう。
「日高はなんとなく……主人公っぽいよね」
「なんの?」
「それに気づかない所もまた」
「意味が分からないぞ」
「分からなくていいよ、今はね。ははっ」
野上の意味深な言葉。その意味が分かるのはもう少し先になりそうだ。
ある程度話が進んだらヒロイン達ごとに分けて話を書いてみたいです。エロゲっぽく(爆)