風邪を引くのもたまにはお得?
リンルートも中盤になりましたね
「リンー」
俺は部屋の外から呼びかける。しかし返事が無い。
いつもなら起きてる時間なんだけどな……。
「リン、入るぞ」
俺はリンの部屋のドアを開けて部屋に入る。
ベッドを見ると、タオルケットを掛けたリンが寝ていた。
「おい、リン。そろそろ起きないと……って、リン! どうかしたのか!?」
俺は近づいて気づく。
リンはすでに目を覚ましていたが、酷く具合が悪そうだった。
「あぅ~……ハル兄……体が熱い……頭もぐらぐらするよ……」
「……お前凄い熱だぞ……ちょっと母さん呼んでくる!」
俺はリンの部屋を出て階段を降りる。
リンの額を触ったが、物凄く熱かった。昨日から少し調子が悪そうだったけど、きっと昨日の雨に濡れたのが最大の原因だと思う。
「母さん! リンが風邪引いたみたいで凄い熱を出してるんだけど!」
「えぇ? ちょ、ちょっと待って。すぐ行くから! あ、ハルは先に朝ごはん食べちゃいなさい」
母さんはそう言うと慌てて二階へぱたぱたと駆けていく。
とりあえず俺もさっさと朝ごはん食ってリンの部屋に行こう。
「ねぇ、ハル。昨日はちゃんと仲直り出来た?」
朝ごはん中に琴姉が尋ねてくる。
「あ、うん。まぁね」
「そ、なら良かった。学校から帰ったらちゃんと看病してあげなさいよ」
「そのつもりだよ」
「うん、いいお兄ちゃんね」
琴姉はにっこりと笑う。
俺は朝ごはんを食べ終え、リンの部屋へ向かう。
「母さん、リンは?」
「んー……熱を測ってみたけど……三十九度もあるわ」
「え、そんなに? リン、大丈夫なのか?」
「ハル兄……とにかく熱いよ……」
リンが力の無い声で答える。
「え、えっとどうすれば」
「ハル、落ち着きなさい。リンはちゃんと病院に連れて行くから」
母さんが言った。
確かに俺が落ち着かないでどうするんだ……うん。
「そっか……」
「とりあえずハルは学校に行きなさい。そろそろ家出ないと間に合わないでしょ?」
「ん、そうだね。じゃあリン、行って来るよ」
俺はリンの頭を何度か撫でてリンの部屋を出た。
頭がぐらぐらする。気持ちも悪いし、何より体が凄く熱い。
お母さんが病院に行く準備が出来るかどうか聞いてきたから、大丈夫と答えておいた。
私は学校の体操着(短パン)を履き、適当なシャツを着る。
『じゃあリン、行って来るよ』
ハル兄の言葉を思い出し、頭に手を置いてみる。
思わず笑みがこぼれてしまう、まるでハル兄が旦那さんになったみたいな気がして。
昔からハル兄にはよく頭を撫でてもらったけど、何度撫でられても嬉しい気持ちは変わらない。
どんなに怒ってる時や泣いてる時、辛い時もハル兄に撫でてもらったら自然と元気になれる。私は昔からそうだった。
『ふあぁぁぁぁぁぁぁん!』
『リン、だいじょうぶ? よしよし、いたくないよー』
『んぐっ……ぐすっ……」
『もういたくない?」
『っ……うんっ』
『よし、いいこだねリンは』
ハル兄は昔から優しかった。
小学生になってからも……。
『やめてよー、かえしてー!』
『へいっ、こっちこっちー』
『くやしかったらとりかえせよー』
『うっ……ううっ……』
『こらー! リンをいじめるなー!』
『やっべ、にげろー!』
『わ、まてよー!』
その後、ハル兄は意地悪をしてきた男子を追いかけてくれて。
『はい、ちゃんととりかえしたよ』
『ありがとう、ハルお兄ちゃん!』
『ん、よしよし』
私に何かあると決まって頭を撫でてくれた。
中学生になってからだって。
『リン、何か辛いことがあったら言いなよ。俺で良ければ力になるからさ』
『うん……でも、やっぱり迷惑じゃ……』
『昔からリンには本当の妹のように接してきたし、妹のためなら頑張るのが俺にとっての兄の理想像なんだよ』
『……ありがと、春斗兄』
『むしろ、俺以外にリンの力になれそうな人なんてあんまり思いつかないしさ』
『あ、ハル君が私を忘れてるよ! 私だってリンちゃんの力になるもん!』
『ふー姉も頼りにしてるよ……ふふっ』
『やっと笑ってくれたな、よしよし』
ふー姉もそういえばよく頭撫でたりしてくれたっけ。
でも、昔は二人から撫でられると暖かい気持ちになったけど今は微妙に違う。
ふー姉の撫では安心するし落ち着くような、そんなお母さんやお姉さんみたいな感じ。
でも、ハル兄の撫では安心する落ち着くんだけど……撫でられる度にドキドキするしなんだか嬉しい。
……なんて、そんなことは当たり前か。
誰だって好きな人に撫でられたら嬉しいしドキドキするから。
ホント、ハル兄が家族でお兄ちゃんであることを実感する度に辛くなる。
昔はよく『ハルお兄ちゃんのお嫁さんになる』なんて言ってた覚えがあるけど、今でも言いたいくらいだもん。
でも、お父さんとお母さんが再婚して私達は血の繋がらない兄妹になってしまった。
正直ショックだったな。
ハル兄といつも一緒に暮らせるのは嬉しいけど、恋愛感情を向けることも家族以外の意味で好きって思うこともおかしいと言われてしまう関係になったのだから。
「ハル兄……好きだよ……」
呟いてみる。
胸は相変わらずドキドキしたまま。
「あのー……リン?」
「わっ、琴姉!」
「風邪引いて凄い熱だって騒いでたから様子見に来たんだけど……」
「こここ琴姉っ! お仕事はっ!?」
「今から家出るから出勤際にリンの顔を見に来たのよ」
琴姉はくすくすと笑う。
「えっと……」
「聞いちゃった」
「……おかしいのは分かってるよ」
私は自嘲するように笑った。
しかし、琴姉は特に笑ったりもせずに私の頬に手を触れた。
「わっ、やっぱ熱い……」
「琴、姉?」
「リン、ハルはね? こんな状態のリンのことを物凄く心配してた。というか、昨日もリンを探すために雨でびしょ濡れになってたし……」
「……」
その気持ちはとても嬉しい。でも、今の私にとってはハル兄がお兄ちゃんであればあるほど辛くなる一方でしかない。
「私は……妹をこんなに想える、そんな素敵なお兄ちゃんのことを好きになる妹がいてもおかしくないと思うよ?」
「え?」
琴姉の肯定的とも言える意見に私は驚く。
「てか、リンは昔からハルのことが好きだったじゃないの。たとえ兄妹になっちゃっても、その気持ちは変わってないみたいだし……リンのそういう一途なところは素敵よ」
「琴姉……」
「ほらほら、泣かないの」
琴姉は私を優しく抱きしめ、頭を撫でてくれる。
暖かくて優しい撫で。でもやっぱり、ハル兄と琴姉の撫でも違う。
「ハルの撫でと違う感じがする?」
「……うん」
「やっぱ、恋愛感情で好きな人に撫でられるとドキドキとかするんだ?」
「え? ……それは……うん」
「ふふっ、青春ね。私もそんな青春送りたかった……」
あ、やばい。これは琴姉の憂いモードだ。
「こ、琴姉! そろそろ仕事行かないと!」
「ん……それもそうね。じゃ、ちゃんと安静にしてなさいよ」
「うん、ありがと」
「多分ハルも夕方には帰って来るから、その時はたくさん甘えるといいわ」
「こ、琴姉!!」
熱でただでさえ熱いのに更に顔が熱くなる。
ハル兄……甘えさせてくれるかな。って、琴姉のせいでちょっと期待しちゃったじゃん……。
でも、もし甘えさせてくれるなら風邪を引くのもたまには良いのかも知れない。
次回はハルが看病する回の予定




