部活見学、そして再会
凛子ルート二話目です
「リン、そういえばお前。部活とかは決めたのか?」
リンが天鳴学園に入学してもうすぐ一週間。
それなりに生活は楽しいようだが、まだ部活などは決めていないようだった。
俺達の通う天鳴学園は実に自由な学校なので無理して部活に入らなくても良いのだ。とはいえ、人間関係を広げるためにも部活には入った方がいい、と部活無所属の兄は思う。
リンの部屋に入り、カーペットの上に適当に座って尋ねる。
「んー……だって何も思いつかないしなぁ。運動とかだってあんまり好きじゃないし」
どうやら酷く乗り気ではないようだ。
リンが運動はあまり好きじゃないのも知ってるけど、少しは運動しないとふt……いや、やめておこう。
「てか、お兄も部活入ってないよね?」
「まぁ、うん」
若干目を逸らしつつ答える。
「お兄がもしも部活に入ってたら私もその部活に入るんだけどなー」
「中学の時もそうだったよな、お前」
呆れ混じりに俺は言った。
中学時代……俺達がかつて通った中学校は、何か必ず部活動をしなくてはいけない決まりがあった(まぁ、それが普通の学校だとは思うが)。
当時、誰かと関わることを極力避けようとしていた俺は廃部寸前の天文部を選んだ。
部員は俺が入部した時には他に誰もいなかった。顧問の先生(なんか小柄で世話焼きっぽい性格の若い女性。教科は理科だった)は部員をどうしたら増やせるか色々と苦闘していたようで、俺が入った時はめちゃめちゃ喜ばれた。少しして俺と同じく部活に迷っていた風花も天文部に入り、先生含め三人で部活動をしていた。
それから一年経って、リンが入学。即効で天文部に入部してきた。
その後、星が好きな先生の説明も交えながら天体観測をした日のことはよく覚えている。
俺と風花とリン、幼馴染な三人しか部員がいない天文部。正直、あの部活はずっとしていたいと思っていた自分がいる。
俺達が卒業した後、つまりリンが三年生だった去年は部員が少し増えたらしくそれなりに楽しかったらしい。……でもやっぱ三人の方が居心地が良かった、とリンは語る。
天鳴学園に入学して、密かに天文部が無いか探してみたが数年前に廃部になったらしい。
再び創部して部員を集めるという展開も考えたが、この世がギャルゲみたいな世界なら選択肢にはなったかもしれない。結局そんなことはしなかったが。
「まぁ、あの時は結構楽しかったしなぁ」
「そうだね……そういえば、ふー姉は調理部だっけ?」
「うん。三年生が卒業して結構人が減ったみたいだけど」
「そっかぁ……でも、私料理とか出来ないし……」
うーん、とリンは唸る。
「むしろ調理部に入部する人なんて料理が上手になりたいとかそんな理由ばかりだと思うけどな」
ちなみにリンの料理は以前食したことがあった。
まぁ食べられなくはないが、正直風花と同じ感じだった。……風花はそんなリンにシンパシーを感じた様子。
でも、調理部に入るのはいいかもしれない。
去年調理部の部長だった優希先輩に誘われたこともあったが、結局俺は入部はしなかった。それでも時々遊びに行ったりはしてたし、部員の人達ともまぁまぁ仲良くなったのである。
……これはリンか俺にとって入部フラグ?
「……よし、決めた。明日見学に行ってみる」
「ん、じゃあ俺も行こうかな」
俺とリンは明日調理部を見に行くことにした。
それと、調理部で思い出したが優希先輩の進路ってどうなったのかな。……そんなことが少し気になる俺だった。
翌日、授業が終わり放課後になる。
俺はとりあえずリンの教室へ向かった。
教室を覗くと、リンはどうやら友達らしき女子二人と何か話していた。一人は中学の頃の友達だと分かるが、もう一人はおそらくこの学校で出来た友達だろう。
「おーい、リン」
「あ、お兄。ちょっと待ってて」
「早くしろよー」
そう言って俺は廊下で待つ。
正直、他の学年の棟ってあんまり居心地がいいものではないので本当に早くしてほしい。
リンは机から教科書などをカバンに詰めているようだった。その隣にいた女子二人は何故かこちらへ歩いてくる。
「こんにちは、凛子のお兄さん!」
「あ、あぁ。こんにちは、なんか久しぶりだね」
確か名前は月野真由子ちゃんだったっけ。
少し大人びた外見で、リンの同級生とか友達というよりはリンのお姉さんっぽい存在の子だと思っていた。
「あ、あの。凛子ちゃんのお兄さんなんですか?」
「うん、そうだけど?」
隣にいた女の子が尋ねてくる。
整った容姿にふわふわした感じの長い髪、眼鏡を掛けていて、知的で真面目な雰囲気を感じさせる色白な子だった。
「は、はじめまして。私、霧島真央っていいます。凛子ちゃんにはいつも仲良くしてもらってるんです」
「そうなんだ。俺は日高春斗、よろしく。リンってば結構そそっかしいからしっかりしてそうな友達が出来たようで安心したよ」
「そそ、そんなことないですよ! むしろ私の方がドジだと思うし……」
俺が笑いかけると、その女の子は赤面しながら否定して俯く。もしかして少し人見知りする子だったりするのかな、と思いつつ
「ま、とりあえず妹のことよろしく。あ、真由子ちゃんもリンのこと頼むね」
「は、はい」「はーいっ」
「皆、何してるの?」
そこにリンが戻ってくる。
「お、来たか。じゃあ行くぞ、リン」
「うん、じゃあ二人ともまた明日ね、ばいばい」
「ばいばい、凛子ちゃん。お兄さんもさようなら」
「じゃーね、凛子。お兄さんにいっぱいスキンシップしなよー」
「余計なこと言わないのっ!!」
真由子ちゃんの言葉にリンは赤面して叫ぶ。
……こいつは友達とどんな話をしているのか問いたくなった。
調理部の活動は家庭科室で行われている。
家庭科室前まで来ると、話し声らしき声が家庭科室内から聞こえてくる。
俺は出入り口のドアを開ける。
「こんにちは」
「あ、ハル君! それにリンちゃんも! どうしたのー?」
風花が真っ先に気づき、俺達の近くまで駆けてくる。
「こいつが見学したいんだとさ」
俺はリンの頭に手を置いて言った。
「あ、あの。見学してもいいですか?」
「いいよ!」
リンがおそるおそる言うと、風花がまたもや真っ先に許可を出す。
他の人達もぜひ見学してって、といった感じでリンを迎えてくれた。
現調理部のメンバーは風花を含め四人。全員女子。
三年生の先輩が三人に、二年生の風花。一年生は今の所誰も入部していないらしい。
今は三年生の先輩達がリンに色々と質問をし、その様子を風花が笑顔で見守っている。なんか暇だな……。
と、その時だった。
「おー、なんだか家庭科室が広くなったなー」
呑気そうな声でそう言いながら家庭科室に入ってきたのは
「優希先輩!?」
「あれ? ハルじゃん! ひっさしぶりー!!」
私服姿の優希先輩だった。
他の部員達も優希先輩が来たことに気づき駆け寄っていく。
「お兄、あの人は?」
「芹沢優希先輩、去年の調理部部長だった人」
「へー」
隣で尋ねてくるリンに答えつつ、俺は先輩に質問する。
「先輩、なんでここに?」
「んふふー、どうしてでしょうかー?」
「……落第したとか? それとももう一度一年生からやり直すとか……」
「んなわけあるか! 卒業式にちゃんと出たわ! そしてなんでやり直すんだよ!? タイムループでもしたのか私は!」
「おー、いいツッコミ」
「ふー……私もまだまだキレのあるツッコミが出来るな」
「……何この空気」
リンがぼそっと呟いた。
まぁ基本的に優希先輩は社交的で明るくてノリがいいから、このくらい普通らしいけど。
「私、この学校の専攻科に残ったんだ。だから、もう二年はこの学校にいるよ。調理部にも顔出すからよろしくっ」
「へー……でも、人が少なくなってたから嬉しいですよ先輩!」
と風花。
「優希先輩、また美味しい物作ってくださいね!」
「今年は合宿もしましょう!」
「春斗君と凛子ちゃんもきっと入部しますから!」
口々に三人の先輩が言う。
てか俺は入部するつもりなんて……。
「え!? ハルが入部してくれるの!? だったらサボってでも部活に参加するよ!?」
「先輩、そんなにキラキラした目で期待されたらめちゃめちゃ困ります。そしてサボっちゃダメですよ……」
俺の手を握りつつ期待の眼差しを向けてくる先輩にツッコむ。
「お兄……ばか……」
そして何故かリンが泣きそうな顔をしながらこちらを見ていた。
「あれ? もしかして、この子ってハルの妹ちゃん?」
「え? はい、そうですけど」
「へー……ハルとは似てない気がするなぁ……ま、二人とも可愛いし別にいいけどさ。私は芹沢優希、よろしくねっ」
優希先輩が爽快に笑って自己紹介をした。そしてリンも自己紹介をし返す。
「凛子ちゃんかー。顔だけじゃなく名前も可愛いねっ」
「ん、んんっ……そんなことないです」
優希先輩がリンの頭を撫でる。
……しかし、リンは色んな人に会う度に可愛いって言われてるなぁ……確かに可愛いんだけど。
「で、結局二人は入部するの?」
「……私はします。ここなら楽しく活動出来そうですから」
微笑みながらリンが言うと、優希先輩や風花が嬉しそうな顔をする。
「ねぇ、お兄も入部したら?」
「うーん、俺はなぁ……」
流石に女子ばっかりの部活でやっていけるかどうか。
「ねぇ、春斗君」
俺が悩んでいると、三年生の先輩のうちの一人が俺の名前を呼んだ。
「春斗君が入部しないってことは、私達がどれだけ凛子ちゃんに色んなことをしてもいいってことだよね?」
「なんでそうなるんですか!?」
「想像してごらん。可愛い妹が複数人の女の子の手によって身も心も侵食されていく姿を……」
「……えらく酷い脅しですね」
「いやいや、女の子同士の恋愛だって珍しいことじゃないよ?」
「リンを変な道に引きずり込まないでください!」
「ふっふっふ、ならば春斗君が守るしかないじゃないか」
「う……」
先輩達の目が怪しく光る。
正直……リンがそんな道に目覚めるのは嫌だ。
「やっぱり入部止めようかな……」
リンが呆れ混じりに呟く。
おそらく先輩達は冗談というか、俺を入部させるための口実のつもりで言ってると思うんだけどな。
「あー、もう。分かりました、入部しますよ」
「「「「「やったー!!」」」」」
三年の先輩達と優希先輩と風花の計五人が声を揃えて喜んだ。……俺にそこまで喜ぶ価値があったのか?
「お兄……」
やけに不安そうなリンが俺を心配そうに見つめる。
俺も不安だけど、まぁ何とかなると思う……多分。
その夜、リンが俺の部屋へやってきた。
「お兄、なんか巻き込んじゃってごめんね」
しょんぼりした様子で謝るリン、俺は彼女の頭を撫でてやる。
「別に気にすんなって。多分遅かれ早かれこうなってただろうし……リンが色々と好き勝手されるのは俺も嫌だからな」
「お兄……」
頬を赤く染め、上目遣い気味に見つめられる。
……こんなに可愛い妹がリアルにいることを世の中に伝えたくなるなぁ。
「あと、あの人達は冗談で言ってただけだよ。普段は普通にいい先輩達だし」
「そうなの?」
「うん。……まぁ、なんだ。万が一何かされそうな時はちゃんと守ってやるから……」
「っ……うん!」
正直言ってこんなことを言うのは恥ずかしいけど、リンの可愛い笑顔を見れただけでも言った甲斐があったと思う。
それに――リンは俺が守ってやるって過去に二度も約束をしたから。




