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僕らに吹く風に揺れる花  作者: ヨハン
ツンとしてデレる少女
32/49

エピローグ~頼りにしてる~

沙夜ルート最終話。色々と時間が飛びすぎたかもしれませんがこんな終わりでどうでしょう。……綺麗な終わり方を目指すとくどくなっちゃうかもなぁ

 今年もまた暑い暑い夏がやってきた。

 社会人になってもう五年程経つが、高校の教師の仕事は正直忙しくて仕方がない。

 とはいえ生徒達に頼られるのは嬉しいし、毎日が楽しいからいいんだけど。

 ……流石に女子に彼女の有無を問われだすと色々と不安だが。

 

「先生、今日は帰り早いんですねー」


 校門付近で数名の女子に捕まる。


「ちょっと用事があるからね」


「もしかしてデートとか?」


「えー、そうなんですかー?」


 愉快そうな笑みを浮かべてからかってくる数名の女子。

 正直少し慣れてきたのでキョドったりはしない。


「ほらほら、君達も早く帰りなさいー。部活動の時間もとっくに終わってるし、早く下校しないと」


「はーい」


「先生さよならー」


「さようなら、気をつけて帰りなよ」


「デート楽しんできてくださいねー」


「……」


 余計なお世話です。

 

「さてと、今何時だ……げっ」


 腕時計で時間を確認すると時間は六時半。

 約束の七時まではあと三十分。今から三十分で約束の場所まで辿り着けるだろうか。






 人ががやがやと賑わう繁華街。

 時刻は七時を回り、人々の年齢層は自然と高めになってくる。とはいえ、制服姿の学生らしき人間もちらほら見える。

 俺は約束の場所にしていた駅前の時計台の下へ向かう。

 時計台の近くのベンチに、彼女は座っていた。

 時間にして十五分程の遅刻。やっぱり怒ってるかな……。


「悪い、ちょっと遅くなっちゃって」


「遅い。というか遅れるなら連絡くらいしろ。……心配しただろ」


「ごめんな、沙夜」


 俺はベンチに座っている彼女の頭を撫でる。


「ん……まぁいい。早く帰ろう」


 沙夜はベンチから腰を上げ、俺の腕を引いて歩き出した。

 改札口を抜け、電車に乗る。幸いそこまで混んではいなかった。

 目的地の駅で降り、外に出る。

 いつもと変わらない街並みが出迎えてくれる。


「沙夜、ちょっとスーパーで買い物してもいいか?」


「そういえば色々と切らしてたな……うん、行こうか」


 スーパーで買い物を済ませて帰路につく。

 静かな夜の道を二人並んで歩いていた。


「しかし、別にあんなに遠くまで迎えに来なくてもいいんだぞ?」


「いいだろ、別に。医者には適度に動くように言われてるし」


「でもなぁ……あの時間帯を一人で待たせるのも不安が残るというか。沙夜は可愛いし」


 そう言うと、沙夜は頬を紅潮させて俯く。


「馬鹿……これでも人妻で妊婦だぞ」


「うん、そうだね。俺の大事な嫁さんだもんな」


 大学卒業後すぐにでも良かったのに、と沙夜は言っていたが俺の研修などが忙しくてなかなか時間が出来なかったのだ。

 俺と沙夜は高校から今まで色々とあったし、何度か喧嘩もした。それでもここまで一緒に歩いてこれた。

 そして去年、周りの人々に祝福されつつ、ささやかな結婚式を挙げることが出来た。

 今は、沙夜が昔暮らしていたマンションで二人で仲良く一緒に暮らしていて、来年には家族が一人増える予定。

 今は妊娠中期で安定期に入っている。名前とかは今考えてる途中。

 ちなみに妊娠の報告は沙夜のお父さんと朝香さんに夕さん、ウチの両親とリン、琴姉にはした。

 そして、沙夜のお母さんの墓前でも。


「そうだぞ、そしてもうすぐハルはパパになるんだからな」


「もうちょいしっかりしないとなー」


 俺は苦笑する。

 その後しばらく歩き続け、マンションに着く。

 部屋のドアの前に立つと、部屋の中から声が聞こえてくる。


「夕さんと朝香さんが来てるんだっけ……にしてはやたらがやがやしてるような」


 ドアを開けると、玄関には靴が……いつもより随分と多く並んでいた。


「ただいま」


 沙夜が言うと、


「おかえり二人ともー!」


「風花!?」


「あはは、びっくりしたー?」


「陽菜まで……一体どうしたんだよ?」


「凛子ちゃんが風花ちゃんや陽菜ちゃんに教えたんだよ。沙夜が妊娠したって」


 夕さんも玄関まで出てきてくれる。


「あと、今姉さんが夕飯作ってるんだけど……量が多くてさ、悪いけど春斗君手伝ってくれない?」


「分かりました」


 夕さんにそう言われ、俺は了承する。

 とりあえずリビングに行くと、


「よ、ハルっち」


「こうして集まるのは久々だね、春斗」


「お兄おかえりー」


 結と誠也とリンもいるわけで。


「結局、全員集合ってことか」


「春斗君、おかえりなさい。凛子ちゃん、出来た料理はそっちのテーブルに持ってってくれない?」


「あ、はーい」


 リンがやたら忙しそうに料理を運ぶ。


「なんか忙しそうだな」


「皆手伝うって言ってくれたけど、料理出来るのって朝香さんだけだったし、あんまり人が多くても逆に大変だからね。ということでお兄には料理の方を手伝ってもらいたいな」


 リンが詳しく説明してくれる。

 そりゃ、こんな人数の料理を一人で作るのは大変だろうに。

 

「とりあえず何をすればいいでしょうか」


「あー、助かるわ。それじゃそっちよろしく」


「はい」


 それからしばらくして、料理がテーブルを埋め尽くす。

 かなり大きなテーブルなんだけどな……。


「今日は沙夜ちゃんがお母さんになって、ハル君がお父さんになることをお祝いするパーティなんだってさ」


「主催は?」


「朝香さんと夕さんだよー」


 あの二人が……相当愛されてるな、沙夜。


「安定期に入ったみたいだし、たまにはこういうのもいいかなって。あ、でも料理の塩分はちゃんと控えめにしてあるわよ?」


「ありがと、姉さん」


 お酒などは全員控えているので、誰かが酔ってハプニングを起こすことなども無く、平穏で楽しい時間を過ごした。

 夕食の片づけを終え、皆が次々に帰っていく。

 最後に帰ろうとしていた朝香さんと夕さんは玄関先で、


「春斗君。沙夜のことよろしくね」


「はい、分かってます」


「ちゃんと定期的に報告はしなよ、沙夜。僕らも甥っ子か姪っ子が生まれて来るの楽しみにしてるんだから」


「ふふっ、そちらにばかり気を取られて仕事でミスしないようにね」


 現在、朝香さんは会社を継いで社長になり、夕さんは社長の秘書をしてるんだとか。

 二人が帰り、家には俺と沙夜が二人だけになる。

 リビングに戻り、


「やっぱ、急に広くなったように感じるな」


「そうだな……まぁ、子供が産まれたらベビーベッドとかでちょうど良くなるだろう」


 ソファに二人並んで座る。

 沙夜はお腹を撫で、優しい声で呟く。


「早く私達に会いに来てね……」


 きっと、沙夜のお母さんもこんな感じだったのかな……と思う。


「そろそろ男の子か女の子か分かる時期だよな? 明日辺り検査にでも行くか?」


「うん……そうする」


「じゃ、明日行こうな。俺も早くお腹の様子を知りたいし」


「うん」


 俺は沙夜のお腹を撫でる。

 あー、今から待ち遠しいな。


「ハルもすっかりパパ気分だな」


「そりゃパパになるんだもんな」


「もうちょいしっかりしないと、赤ちゃんがガッカリしちゃうぞ?」


 沙夜はクスッと微笑む。

 俺は苦笑しながら


「そんなに頼りないか? 俺……」


 そう言うと、沙夜はやけに甘い声で呟くように言った。


「……嘘だ。私はハルのこと……誰よりも頼りにしてるから」


 沙夜はそう言って、俺の肩に頭を乗せてくる。

 それでもやっぱり、俺はもっとしっかりしなきゃいけないと思う。命に代えても守らなきゃならない家族が増えるのだから。

 俺は絶対にお前達を支える。

 沙夜と、沙夜のお腹の中にいる赤ちゃんに……俺はそう誓った。


 ――それから数ヵ月後、俺と沙夜は新たな家族の産声を聞くことになる。

 健康に異常も無く、元気な女の子が俺達の新しい家族になったのだった。

 名前は日高美陽(ひだか みはる)

 美しい太陽のように明るく、皆を照らせる存在になってほしいと思ってそう名づけた。

 沙夜は美陽が生まれてきた時、

 

『私達の所へ生まれてきてくれてありがとう』


 そう美陽に言った。

 俺も同じ気持ちだったし、何より大切な娘が出来たことに感極まり泣いてしまった。

 

 とある日、俺は沙夜の病室を訪れた。というか毎日のように病院に通ってるのだが。


「沙夜。もうすぐ退院出来るんだよな?」


「うん。あと一週間くらいで」


「じゃあ、退院したら近いうちに三人であのひまわり畑でも見に行こうか」


 俺がそう提案すると、沙夜は少し驚いたような表情を見せて笑う。


「それはいい考えかも。近くにお祖母ちゃん家もあるし、美陽にもあの場所を早く見せてあげたいし」


「じゃ、決まりな」


 美陽はあの場所を気に入ってくれるかな? でもまだ分からないかな?

 そんなことを考えつつ俺は未来を想像していた。

 

「ハル、なんだか以前よりも頼りになる感じがする」


「そうか? それは嬉しいな」


「ふふっ……そうだ。私も美陽も、ハルのことを頼りにしてるんだから」


 頼りにされてるなら、頼りにならなきゃな。

 なんせ、守るべき家族が二人いるんだから。






「パパー。きれいなおはながいっぱいー」


「あれはひまわりっていうんだよ」


「ひま……わり?」


「そうそう、ママやパパも大好きな花なんだ」


「みはるもあのおはなすきー」

 

 俺と沙夜に手を繋がれている美陽は元気にはしゃぐ。

 この子が生まれてからここに来たのは何回目だろうか。

 ようやく喋れるようになった美陽は好奇心旺盛に言葉を口にするようになった。


「ここは、ママとパパにとって思い出の場所なんだよ。きっと美陽にとっても思い出の場所になるかもしれないね」


 沙夜はしゃがんで美陽と同じ視線の高さになると、美陽へ向けて優しく微笑む。


「うん! みはるね、おっきくなってもここにくる!」


 美陽はとても明るい笑顔でそう答えた。

 

「美陽はよく笑うなぁ。なんだかひまわりみたいだ」


「みはる、ひまわりなの?」


「あはは、美陽がひまわりなんじゃなくて、ひまわりみたいに綺麗で明るい笑顔を見せるねってことだよ」


「むー?」


 ちょっと俺の言っていることが理解出来なかったらしく、可愛らしく首を傾げる。


「うーん。とにかく、美陽はとっても可愛いってことだよ、ママみたいにね」


「みはるかわいいの? ママににてる?」


「うん、とっても可愛い。ママにも似てるかもね。それに、パパみたいに優しい子だよ」


 沙夜がそう言って美陽を優しく撫でる。

 母子そろって可愛いなぁ……。


「ふぅ、ちょっと暑くなってきたかな? 美陽、沙夜。そろそろ帰ろうか」


「みはるはまだここにいたいよー?」


 疑問系なところがまた可愛らしい。


「あはは、またすぐに来れるよ。でも今は暑くなっちゃうから、一旦お祖母ちゃんの家に帰ろうね」


「んー……わかった!」


「さ、二人とも俺についてこーい!」


 俺が明るく二人に言うと


「パパは頼りになるね、美陽」


「うん! パパだいすきー!」


「ママは?」


「ママもだいすきー! みはるはパパとママがだいすきなの!」


 こんなに可愛い娘に大好きと言ってもらえること以上の幸せがどこにあるだろうか。

 俺は思わず美陽を抱きしめてしまう。


「あーもう! 美陽は本当に可愛いな!!」


「パパー、くるしいよー」


「あ、ごめんごめん」

 

 美陽を腕から開放する。

 その後、俺達は三人仲良く手を繋いで歩き出す。

 歩いている途中、沙夜が話しかけてくる。


「ハル」


「ん?」


「私は何があっても美陽を守る。そしてハルを支えるから」


「ん……そっか」


 沙夜はきっと、天国のお母さんのことを思い出しているのかもしれない。

 そして、そんなお母さんのように優しく暖かく美陽を守りたいと思っているだろう。

 沙夜なら、お母さんのようになれる。俺はそう思う。


「沙夜ならきっと大丈夫だよ。それに、もしも大変な時は俺が沙夜を支えるから」


「ん、頼りにしてる」


 かつて他人を避け、いつも一人で抱え込もうとしていた少女は今、俺を頼りにし、娘を守ろうとする母になった。

 そんな彼女と一緒なら、どこまでも歩いてゆける。俺達にしか歩けない道を、一緒に歩いていきたい。

 沙夜、今は幸せか? なんて聞くまでもないか。

 俺も幸せだ。この世で一番大事で大好きな妻と娘が隣にいるんだから。

 

 暖かな風が吹き――俺はふと振り返る。そこには、太陽に向かって輝くように咲き誇るひまわりが咲いていた。


沙夜ルート終了! 次は凛子ルート、ブラコン気味なあの少女のルートに行きましょう! これからもよろしくお願いします!

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