下校
氷室との下校です
授業が終わり放課後を告げるチャイムが鳴る。
久代や風花は部活、清川や野上は委員会。ということで俺は一人何をするか考える。
野上とかを待ってもいいんだけど……。
「家事とかあるしな」
仕方ないと思いつつ、俺はすでに人がほとんどいない教室を出た。
誰かと登下校することが多かった俺にとっては一人の登下校が酷く寂しく感じられる。
そう思いながら昇降口を出ると、見慣れた姿があった。
「氷室?」
「なんだ、日高か」
つまらない物を見るような目でこちらに視線を向ける。
「なんだとは酷いな」
「じゃあお前は何か面白い特技でもあるのか」
「……ないけど」
どうも氷室は直球な発言で傷つけてくれるなぁ。
「氷室は今帰りか?」
「あぁ」
「じゃあ一緒に帰ろうか」
「断る」
即答かよ。
また傷ついた気がする。
「まぁまぁ」
「まぁまぁ、じゃない。お前はストーカーか?」
「ストーカーはもっと陰に隠れるんじゃないかな。それに、俺達と一緒に行動してくれるんじゃなかったのか?」
「気が向いたらと言ったはずだ。今は気が向いてない」
「……」
「な、なんだ。そんな悲しそうな顔をしても駄目だぞ」
「…………」
「わ、私はそんな顔をされても揺らがないぞ」
「…………………」
「っ、あぁ! もうっ! 鬱陶しい! 分かったからその顔を辞めろ!」
やった、揺らいだ。
というわけで氷室と一緒に帰ることに成功する。
「ったく、お前は駄々っ子か」
「だって氷室と一緒に帰りたかったし」
「なっ……」
氷室は急に顔を赤くして驚いた顔を見せる。
こんな表情も出来るのか、とちょっと感慨深くなってしまう。
「お前はどうしてそんな恥ずかしいことを言えるんだ……」
「恥ずかしいか? 事実なんだから別にいいと思うけどなぁ」
「…………バカ、バカ日高」
そう言ってそっぽを向いてしまう氷室。
この子って実は押しに弱くて恥ずかしがり屋な性格なんじゃないかと思う。
「……そういえば、昨日兄さんが言っていた。姉さんを止められなかったと」
そうか、まぁそれも仕方ないよな。
俺らにとっては夕さんが協力者になってくれただけでもだいぶ救われたし。
「まぁ、いよいよあの姉を止められる奴はいないな」
「氷室はどうするつもりなんだ?」
「……お前達と行動するのも悪くはないと思うが、やっぱり時と場合は考えようと思ってる」
全く関わらない、そんな答えが返ってこなかっただけでも十分だ。
「学校とかだと、今まで通りってことか?」
「あぁ、そうだな……」
「んー、じゃあ休日とかで皆と一緒に遊ぶのはどうだ?」
「……無理を言うな。そりゃ私だって……」
「え?」
「いや、なんでもない。休日は忙しいから無理だ」
氷室は言い直すように言い切る。
まぁ、仕方ないか。
「じゃあ、こうして一緒に帰るのは?」
氷室はしばし考えた後、少しだけ笑って言った。
「……気が向いたら、だ」




