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僕らに吹く風に揺れる花  作者: ヨハン
ツンとしてデレる少女
19/49

一匹狼少女

というわけで次のルートは氷室沙夜です。

 とある日の昼休み。

 風花が氷室の席へと向かった。


「ねー、沙夜ちゃん。私達と」


「断る」

  

「まだ全部言ってないよ!?」


「どうせ昼食の誘いだろう?」


「そうだよ、よく分かったね!」


「……」


 氷室は心底どうでもよさそうな顔で席を立ち教室を出ようとする。


「ちょ、ちょっと待って!」


「……まだ用があるのか」


「私達は沙夜ちゃんともっと仲良くなりたいんだよー……だからお願い!」


「……私に構うな」


「あぅ……」

 

 取り付く島もないというのかこのことか。

 風花は残念そうに氷室の後ろ姿を見送り、とぼとぼとこちらに戻ってくる。


「残念だったね、風花ちゃん」


「うぅ……陽菜ちゃん」


 清川の慰めを受ける風花。

 まぁ、あんな風にきっぱりと断られたらそれはそれでショックだよなぁ。


「どうして駄目なんだろうね?」


「んー……沙夜ちゃんは中学の時はもうちょい愛想良かったけどなぁ」


「あれ、清川って氷室と同じ中学なのか?」


「うん、そうだよ。結構いつも一緒に行動してたのになぁ……最近元気無さそうだし」


 旧友の目にはそう見えるらしい。

 俺にはいつも無愛想で不機嫌にしか見えなかったんだけど。

 と、その時だった。琴姉が教室に入ってくる。


「やっほー、皆元気ー?」


「あれ、琴音先生。どうしたんですか?」


 俺が尋ねる。


「ん、日高君に用があったのよ。ちょっとこっち来て」


「あ、はい」


 琴姉の後に続いて教室から廊下に出る。 

 廊下に出ると、琴姉が廊下の先を見て言った。

 

「さっき氷室が教室から出てったけど何かあったの?」


「え、まぁ」


 さっきの出来事を少しかいつまんで説明する。

 すると、琴姉はふーん、とだけ反応した。


「ま、仲良くすんのはいいんだけどね……」


「どうかしたのか?」


「あの子、悩みがあるようにも見えるのよね」


「へー……意外と琴姉って生徒一人ひとりのこと見てるんだな」


「ま、これでも教師だからね。まだまだ半人前だけど」


 琴姉が笑って言った。


「でも生徒には好かれてるしいいと思うよ」


「あ、そう? それは嬉しいわね~」


 まぁ琴姉は女子の間でも男子の間でも憧れの的として人気あるみたいだし。


「あ、それで本題なんだけどね」


 思い出したように琴姉が言った。

 どうやら次の授業で使う教材を運んで欲しかったらしい。

 俺は指定された場所から教材を教室へ運ぶ。

 教室へ向かう途中、あまり通ったことのない階段を通る。すると、踊り場に誰かがいた。

 

「あれ、氷室……? と、あの人は誰だろ……」

 

 見たことのない人だけど、どことなく氷室に似てるような。

 なんだか少し空気が和やかではなかったので近くの角に隠れた。

 二人の会話が聞こえてくる。


「沙夜、アンタちゃんと言うとおりに一人ぼっちで過ごしてる?」


「……あぁ」


「ならいいわ。でも、もし言いつけを破って誰かと仲良くしたら……分かってるわよね?」


「……本当に性格悪いな、この権力乱用者」


「権力のある人間が権力振りかざして下の地位の人間従わせるのは当然じゃない。あたしは気に入らない相手とか、いつもそうやって従わせてきたしー」


「……それはあくまで氷室家の権力だろう。あまり調子に乗るな」


「アンタ、あたしにそんな口の利き方していいと思ってるの? アンタを退学にさせることくらい簡単なのよ」


「……あの親バカな父親が私を退学させると思うか?」


「その親バカの扱い方を一番心得ているのはあたしなのよ?」


「……っち」


「ま、分かったら下手なことはしない方がいいわね。この学園の男子生徒を全員従えるのが目的なんだから」


「……ふん、私には姉さんの暴君のような願望など興味ない」


「ま、いいわ。アンタは愛想よくしてりゃ男共から寄ってくるでしょうけど、そんなこと許さないからね」


 話を聞く限り、氷室は姉さんに何かを命令されてるらしい。

 どんな事情があるかは知らないけど、なんか氷室の姉さんも相当変わってるし……理不尽過ぎる。


「私が元から愛想のないことはよく知っているだろ」


「まぁね~。ま、とりあえず大人しく一人ぼっちで過ごしてなさいよ、これは命令だからね」


「……姉さん、この話を誰かに聞かれたらどうしようかと考えたことはないのか」


 あれ、もしかしてバレてる?


「そこにいるんだろう、日高」


 あ、バレてた。

 隠れてても仕方ないので俺は二人の前に出た。


「もしかして、アンタのクラスメイト?」


「まぁな」


「へぇ……中々いい感じの男子じゃない」


「……だそうだ、日高」


「え……あ、うん。そうなんだ」


 いや、そんなこと言われましても困りますよ。


「せっかくだから自己紹介してあげる、あたしはこの目つきの悪い女の姉、氷室朝香(ひむろあさか)よ。この学園の頂点でもあるわ。いずれあなたもあたしを崇拝することになるわ」


「はぁ」


「……日高、あまり聞く耳を持たない方がいいぞ」


「いや、でも……なんかこの人、間違ってると思うんだけど」


「日高? お前、この女の話を聞いていなかったのか……? 怖いもの知らずもいい所だぞ」


「でも、だからって氷室が自分を抑える必要はないと思うよ」


 気づいたらそう言っていた。

 確かに権力乱用されるのは怖いはずなんだけどなぁ。

 何故こんなことを言っているのかは自分でも分からない、でも一度言い出したら言葉が止まらない。


「お前……私は別に抑えてなんか」


「本当にか? 少なくとも、清川にはそう見えているみたいだよ」


「陽菜か……余計なことを言ってくれたものだ」


「氷室、どうして……」


「アンタらあたしを無視してんじゃないわよ!!」


「わっ」


 突然氷室の姉さんが怒鳴った。


「てか、本当に怖いもの知らずねアンタ。退学になりたい?」


「あからさまに脅してますね……」


「言っとくけど、私達の親はこの学園の理事長よ」


「え、そうなの?」


 俺は氷室に聞いた。


「まぁな」


「あたしに逆らう奴は皆退学にしてあげるわ。君も大人しくあたしを崇拝した方が身のためよ」


 なんか、この人凄い理不尽だな。

 正直あまりいい気はしない。

 そう自覚した途端、怒りに似た感情がこみ上げてくる。


「あの、お言葉ですが--」


「日高、もうすぐ授業が始まる。さっさと帰るぞ」


「あ、おい!」


「ちょっと! 何勝手に帰ろうとしてんのよ!」


「うるさい、私達は真面目な一年生だ、じゃあな」


 氷室は自分の姉を軽く受け流すと、俺の腕を引いて歩き出す。

 後ろで怒声が聞こえたけど気にしてはいけないと思った。


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