先輩とか勧誘とか
ルートの追加です。時系列的には結ルートに入らず数日経った感じです。新キャラ芹沢優希の登場+先輩ルート追加ということでよろしくお願いします
「風花、お前結局何部に入ることにしたんだ?」
昼休み。
俺はふと気になったので尋ねてみた。
「調理部だよ?」
「調理部? ……マジか」
あの風花が調理か。色々と大変そうだな。
「あ、何その顔! もしかしてハル君失礼なこと考えてない!?」
「ちょっと危なっかしいなって」
「大丈夫だよ、先輩が一から教えてくれるもん!」
「先輩?」
「うん、すっごく優しくて面白くて頼りになるお姉さん的先輩!」
風花が笑顔になる。
この笑顔を見る限り先輩は相当いい人らしい。
「なんか結ちゃんに似てるかも」
「久代に?」
「うん。雰囲気とか、言動とか」
なんとなくその先輩とやらの人間性が分かってきたような。
風花が懐くのも分かるかも。
その時だった、教室の出入り口に見慣れない人がやってくる。多分上級生だろう。
ショートカットの活発そうな外見からして運動部の人だろうか。
「おーい、フウー」
「あ、優希先輩! どうしたんですかー?」
運動部じゃなかった。
あの人が例の先輩か、と思いながら俺は見ていた。
「いや、今日の部活についてちょっと連絡が。それとフウ不足を補うために」
久代で脳内再生余裕だった。
文の最後の言葉からしてこの人も結構変わってそうだなぁ。
「さぁ、先輩の胸に飛び込んでくるんだ後輩!」
「優希先輩!」
先輩が声色を少し変えると、風花も演技するような声になる。
そして昼休みの教室の出入り付近で熱く抱き合う二人。
これは何の茶番だろう。
「あ、ハル君。ハル君もやる?」
「…………ハァ」
「分かりやすく呆れられた上に露骨に目を逸らされた!?」
なんていうか今は他人の振りをしたい気分だった。
「風花、彼は?」
「私の幼馴染で隣人で嫁の日高春斗君です」
「嫁って言うな!」
何言ってるんだこいつは。
「え、じゃあ夫?」
「違うから!」
真顔で尋ねるなよそういうこと。
先輩がなんだか興味のあるような目でこちらを見てくる。
「へー……なんか可愛い夫婦がここにいるなぁ」
先輩がこちらに近づいて、俺と風花を交互に見て言った。
「夫婦じゃないですから!」
「あはは、分かってる分かってる。顔真っ赤にして可愛いなぁ、ハル君とやら」
心底楽しそうに笑う先輩の笑顔に思わず見惚れてしまいそうになる。
近くで見て分かったことだけど、この先輩相当美人だ。
「君、料理とかする?」
「え、えぇ。しますけど」
「優希先輩! ハル君の料理はすっごく美味しいですよ!」
「おぉ、ホント? いいねぇ、料理出来る男子なんてポイント高いぞ~」
「はぁ……」
先輩が俺の脇腹を軽く小突いてくる。
そういうものなのか。
「よっしゃ、フウ。ちょっと嫁借りてくよ」
「早めに返してくださいね」
俺はレンタル商品か何かか?
先輩に連れられ、階段の踊り場にやってくる。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私は調理部部長で三年生の芹沢優希っていうんだ」
「芹沢先輩ですか……」
「優希でいいよ。あんまり堅苦しい呼び方は苦手でさー」
「じゃあせめて優希先輩で」
「んー、まぁいっか。私はハルって呼ぶからさ」
「お好きにどうぞ」
雰囲気とか喋り方とか見る限り悪い人ではなさそうだった。
まぁ、風花が懐くくらいだしな。
「ちなみに部活は?」
「無所属ですけど」
「そっかそっか……じゃあ単刀直入に言おう」
「はい?」
「調理部に入れ!」
「命令!? 入りませんよ!」
人差し指をびしっとこちらに向けてくる優希先輩。
俺は即答で断った
「早っ! あんまり早いと女の子が満足出来ないぞ?」
「何言ってるんですか!?」
なんか凄い夜のネタな気がするぞ。
「まぁ冗談はともかく、何で即答するのさ」
「あー、すみません。でも、俺あんまり部活とか興味なくて……」
まぁ、嘘じゃないよな。
それに俺は家で家事してる方が楽しかったりするし。
「じゃあこの機会に入部しちゃえ! 調理部は女の子ばっかりだし、ハルは可愛いからきっとモテるぞ?」
「……」
「あれ? もしかして揺らいでるのか?」
優希先輩がにやりとした笑みを浮かべ顔を近づけてくる。
確かにちょっと考えはしちゃったけど。
「じゃあもう一押しかな……ねぇ、ハル?」
「優希……先輩?」
少し艶っぽい声で先輩が迫ってきた。階段の踊り場の壁に追い詰められる。
そして俺の耳元で先輩は囁いた。
「入部してくれたら勉強とか、学校のこととか……それに女の子のこととか、教えてあ・げ・る」
「ーーーッ!!」
一気に顔が熱くなる。
体が密着しそうな状態、艶っぽい声での囁き、女の子特有のいい匂いが香る。やばい、これはやばい。
「あははっ! 冗談冗談! ホントにウブで可愛いなハルは」
「からかうのはやめてください……ったく」
「ごめんごめん、でも私ハルのこと気に入ったよ。私達はいつでも待ってるから、気が向いたら来てみて」
優希先輩は俺の肩をぽんと叩き、その場を去ろうとする。
「あ、そうだ。一応メアドと電話番号教えて」
アドレスと電話番号を交換すると、今度こそ優希先輩は去っていった。
なんだか不思議な先輩だなぁと思いつつ俺も教室に戻った。
その日の夜、例のギャルゲ「僕らへ吹く風」をプレイしていた時だった。
なんだか追加ルートが増えていることに気がつく。
先輩、ね。
優希先輩を顔を思い出す。
と、その時携帯が鳴る。誰からのメールだろうと思いつつ携帯を操作する。
「先輩から……?」
メールの内容は
『私これから寝るから襲いに来ちゃ駄目だぞ? あと、ハルも夜はほどほどにね(笑) おやすみっ』
いや、まず家知らないし。そして夜はほどほどにとか余計な心配はいりませんよ先輩。
思わず笑みが零れてしまった。
正直、風花が懐く理由が分かった。
冗談の通じる明るい性格、部長として部の状態を気にかけている所、何より嫌味のない後輩への態度。
少しくらいは調理部のことも検討してみようかな。




