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僕らに吹く風に揺れる花  作者: ヨハン
未来へ走る少女
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エピローグ~一緒に走る~

結ルート編最終話です。舞台は二年後、高校生活三度目の夏です。

 高校生になってから三回目の夏を迎えた。

 どこまでも澄んだ青空に浮かぶ太陽が地面を照りつける中、俺とリンはとある場所へ来ていた。

 コンクリートで作られた建物。クーラーによってひんやりとした空気に満ちた廊下を歩き、いくつか階段を登ると人々の歓声が聞こえてくる。

 辺りを見回すと、見慣れた顔が数名手を振っていた。俺とリンは駆け寄る。


「ハル君とリンちゃんやっときたー!」


「悪い、ちょっと寄り道しててさ」


「こんにちは、ふー姉」


「まぁまだ始まらないから大丈夫だよ、リンちゃんは今日も相変わらずお兄ちゃんっ子だねぇ」


「そ、そんなことないですよ! 何言ってるんですか陽菜先輩!」


「おい陽菜。あまり凛子を困らせるな」


「はーい」


「そういえば誠也。お前夏休みの課題どのくらい進んだ?」


 すると誠也は余裕の表情を浮かべた。

 

「もう終わったよ」


「マジか。俺まだ半分くらいだぞ」


「私も終わったぞ」


「え、沙夜ちゃん本当に? じゃあ、あのね」


「課題は写させないぞ、陽菜」


「がーん」


「じゃあハル君、リンちゃん。今度一緒に勉強しようよ」


「あ、私も行きたいー」


「風花と陽菜がいると勉強会じゃなくなりそうだな、全く」


「沙夜が正論過ぎるな……ははっ」


 俺は苦笑する。

 今年は高校生活最後の年。大学受験に向けて皆忙しいはずなのに、というか忙しくならなければいけないはずなのに一昨年からずっと変わらず、毎日のようにいつものメンバーで遊んでいた。流石に危機感を感じていたが、まぁ今が楽しければいいという皆の性格上どうしようもないと俺も諦めかけている。

 俺と風花、陽菜、沙夜、誠也。そして去年同じ高校に入学してきたリン。呼び方も少しだけ親しくなり、俺達は正に青春真っ只中だった。

 しかし、ここには彼女がいない。

 それもそのはずだった。なぜなら……。


「あ、結ちゃんいた。結ちゃーん!」


「おー、皆来てくれたのか! ありがとー!」


 観客席から数メートル下のトラック上に結はいた。


「結ちゃん頑張って!」


「私は風花の笑顔で元気百倍だぞ!」


「頑張ってね、皆全力で応援するからさ」


「おう、誠也もちゃんと見とけよな!」


「頑張れよ、結」


「頑張って、結ちゃん」


「陽菜、沙夜が応援してくれたぞ。今日は雨が降るんじゃないのか?」


「バカ、私だって応援くらいするぞ」


「ははっ、冗談だよ。ありがとな」


「結姉! 結姉なら絶対一位になれるよ!」


「よっしゃ、リンの望み通りちゃんと一位取ってみせるぞ!」


「…………」


 盛り上がる中、俺は結をじっと見つめた。


「…………」


 俺の視線に気づいた結も何も言わず、少し微笑んでこちらをじっと見つめている。

 何か気の効いた言葉を考えたが上手い言い方が思いつかない。だから、思ったことを口にした。


「結、信じてるぞ」


「……うん!」


 結は頷くと俺達から離れていった。

 あれからリハビリを続けた結は完全に足を完治させた。もちろん楽にここまで来れたわけじゃない。何度も挫折しそうになりながら、その度に心の距離を深めて乗り越えてきた。

 そして今の俺に出来ることは、今の結を信じて応援することだけだった。

 もうすぐ始まる。これが三年間の集大成だ。

 きっと結はこの大会で終わることなく、次の大会へ進めると皆信じていた。





 俺達が見たのはあまりにも軽やかに走る結だった。

 正直、結の走りを見たことはあまり無かった。しかし、そんな俺でも目を奪われるくらいに無駄の無い流麗な走りだった。

 気がつくと結は他の選手を大きく離してゴールしていて、こちらへ向かって片手でガッツポーズをしている。

 他の皆を見ると、風花や陽菜やリンは無邪気に喜んでいて、誠也も穏やかに笑っていた。少し素直じゃない沙夜でさえ感動の笑みを浮かべている。

 俺はもう一度結を見て、こちらも片手でガッツポーズをして見せた。


 全ての競技が終わり、陸上競技場の外で待っていると、しばらくして結が出てきた。

 

「おめでとう、結ちゃん!」


「凄くカッコよかったよ!」


「結姉大好き!」


 陽菜と風花とリンが結に飛びつく。結は振り払いもせず嬉しそうに三人を抱きしめる。


「応援してくれてありがとなー! 皆!」


「結、凄い綺麗な走りだったねぇ」


「あぁ、正直感動した」


「あの沙夜を感動させられたのなら死んでもいいぞ!」


 そんなことを言う結に沙夜は少し照れながら反論した。


「なっ、思ったことを言っただけだ!」


「そういえば、結が死んだら一番悲しむ人はまだ何も言ってないねぇ」


 そう言って誠也は俺の後ろに回り、俺の背中を押して結の方へ押し出す。


「ちょっ、誠也!」


「ハルっち……ありがとな」


「あ、いや。結、凄く綺麗な走りだったな」


「ありがと。ホント……ありっ……がとぅぅ」


 結は感極まった様子で泣き出す。

 急に泣き出され俺は慌てふためいた。


「ちょ、結!? どうしたんだ!?」


「なんかっ……もうっ……ハルっち、ふわぁぁぁぁっ……」


 俺の首に腕を回して本格的に泣き出す結。

 少し驚いたけど、俺は結をちゃんと受け止めないといけないと思った。

 軽く体を抱き、片手で頭を撫でてやる。


「結、よく頑張った……」


「うんっ……ハルっちのっ……うぐっ……お陰だっ」


「頑張ったのは結だよ。よしよし……」


 そういえば周りに皆がいるんだっけ。

 少しだけ周りの皆をちらりと見た。なんだか皆微笑んでいるのが可笑しい。


「ハル君、私達も混ぜて!」


「じゃあ私もー!」


「あぁ、ふー姉と陽菜先輩ずるいです! 私も!」


 俺と結に風花と陽菜とリンが飛びついてきた。

 なんか俺、凄い状況にいるな。もしも男子に見られたら殺意沸かれそうだ。誠也は流石に例外だろうけど。


「ふっ……あはは! 皆大好きだ!」


 さっきまで泣いていた結は輝くような笑顔で笑っていた。

 

「春斗も大変だねぇ」


「お前楽しんでるだろ」


「まぁね」


「まぁねって……」


「お前達、バカやってないで帰るぞ」


 沙夜が言うと皆が後に続く。

 ちょうど夕日が綺麗な時間、空は茜色に染まっていてとても綺麗だった。

 伸びる七人の影は楽しそうにじゃれ合っている。


「皆で走ろーぜ!」


 結が言った。

 一人の影が走り出すと、六人の影が後に続いて走り出した。

 しばらく走った俺達は少し休憩する。そして再び歩き出す。

 俺の隣を歩く結はこちらをじっと見ていた。


「ほら、ハルっち」


「え?」


 結は俺に手を伸ばす。

 俺はとりあえずその手を取った。


「これからもずっと一緒に走り続けてくれるか?」


「……あぁ! もちろんだ!」


 結の言葉にしっかりと頷く。

 そうだ。俺はずっと結と一緒にいたい。一緒に走りたい、心からそう思う。

 結は俺の手をぎゅっとと握る。

 その手は暖かくて、絶対に離したくなくなる。いや、絶対に離さないんだ。

 愛しい人はここにいて、幸せをこの上なく感じている。結の手もこの幸せも絶対に離さない。

 俺達は手を繋いで少しずつ足を速める。


「一緒に走ろ! ハルっち!」

というわけで、結ルート終了です! 次は誰のルート書こうかな(実はもう決まってたり) ルートが終わる度に分岐点の話からに戻るということをお忘れなきよう。ではまたそのうちw

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