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僕らに吹く風に揺れる花  作者: ヨハン
未来へ走る少女
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夏祭り

そろそろ結ルートは完結に近づいてきました

 八月中旬。まだまだ暑い日が続く中、俺と結は毎日のように色々な所へ出歩いていた。

 結の足は少しずつ回復し、今では一人でもだいぶ歩けるようになっていた。それはこれまで大変なリハビリを折れることなく続けた結の努力の結果だった。

 風花達の提案で、今日は近くの商店街にある大きな神社で開催される夏祭りに行くことになった。メンバーは風花、結、野上、俺の四人だ。清川と氷室はどこかに出かけるらしいが詳しくは聞いていない。リンは学校の友達と行くらしいが。

 そんなわけで時刻は午後六時半。俺と風花は待ち合わせ場所である商店街の入り口付近で待っていた。しばらくして野上がやってくる。あとは結だけだが……


「結、迎えはいらないって言ってたけど……やっぱり行ってくる」


「じゃあ僕も行くよ」


「私も一緒に行くよ、ハル君」


 結局三人で迎えに行くのか、と思ったその時。


「おーい、ハルっちー、風花ー、野上っちー」


 遠くから聞き慣れた声が聞こえてくる。

 俺達は目を疑った。遠くから結が走ってきた。一度もつまずくことなく俺達の所へ到着する。


「遅れてごめんなっ」


 俺達はそれよりも彼女が走っていたことが気になって仕方がなかった。


「結!? 足は大丈夫なのか!?」


「え? まぁ……なんとか走れるようにはなったぞ!」


「凄いなぁ結ちゃん……」


「驚いたなぁ……流石は久代」


「あはは……とりあえず、早く行こうよっ」


 結の言葉に急かされるように俺達は歩き出した。先頭を風花、その後ろに野上。俺と結は並んで歩く。すいすいとスムーズに歩けている結を見て少し安心した。

 しばらく歩いて神社に到着する。神社は当然のごとく人で溢れかえっていた。

 出ている屋台は金魚すくいやたこ焼きなどポピュラーなものから鉄板焼きなどなかなか本格的なものまである。


「さて、来たのはいいけどどうしようか」


「皆で一緒に回ればいいんじゃないか?」


「いやー、それもいいんだけどね? やっぱり夏祭りというイベントを恋人同士で楽しまないのも損じゃない?」


 野上の発言は気を利かせているようでからかっているだけだろう。


「ハル君、もし良かったら二人で行ってくれば? 私達のことはいいからさ。野上君と二人きりは嫌だけど」 


「何気に酷いな風花」


 流石の野上も苦笑いだった。

 そんなわけで俺と結は二人で行動することになった。

 ちなみに野上と風花は結局別々で行動するらしい。どっちも結構自由な人間だしいいか。

 二人と別れ結と並んで歩く。が、隣を歩く結はどこか落ち着かない。


「あ、あの……」


「ん?」


「……ハルっちとはぐれないか心配だ」


 結が落ち着かない理由がなんとなく分かった。つまり、こういうことだろう。


「ほら」


「……ん」


 手を差し出すと結は嬉しそうに手を繋いでくる。離れないようにしっかりと指を絡ませる。ついでに体の距離を縮めた。


「これで大丈夫だな」


「ん……へへっ」


 嬉しそうに微笑む顔を見て、なんともいえない平和な気持ちになる。

 手を握る力を少しだけ強めた。すると結も力を少し強める。

 しばらく二人で歩くと目の前には見慣れた二人がいた。


「あれ、氷室に清川。お前らも来てたのか」


「日高に結か……私は陽菜がどうしてもと言うから仕方なくだな……」


 氷室も清川も手には色々なものを持っていた。氷室の手にはパックに入ったたこ焼きや焼きそばを入れたビニール袋、清川は食べかけのチョコバナナやりんご飴などを持っていた。


「あはは、沙夜ちゃんだって結構楽しんでるじゃん」


「そ、そんなことはないっ。大体お前はいつも私のことを分かったような口で……」


 少しムキになって清川に反論する氷室。この二人は本当に仲がいいな……。


「とりあえずチョコバナナ食べて落ち着いて。これ美味しいよー」


「む……ん……美味い」


「甘い物大好きな沙夜ちゃんも可愛いー」


 姉に甘える妹のように、氷室に笑顔で抱きつく清川。


「馬鹿っ、抱きつくなっ。りんご飴がべたべたするんだ。それを食べてからにしろ」


 食べてからならいいのかよ、と内心でツッコミを入れる。


「なぁ……ハルっち。なんかむずがゆいぞ」


「奇遇だな、俺もだ」


「……んんっ。とりあえず私達はこれで失礼する、二人を邪魔しては悪そうだからな」


「それもそうだね。ばいばい春斗君、結ちゃんっ」


 氷室がわざとらしい咳払いと気遣い(?)の言葉を口にする。清川はそれに笑顔で便乗した。

 どちらかといえば俺達の方が邪魔だったんじゃないだろうかと思いたくなるくらいだったが。

 俺達から離れていく二人の会話が人混みのざわつきに混じって聞こえてくる。


『沙夜ちゃん、次はベビーカステラ食べたいな』


『まだ食べるのか? そのくらいにしておけ、腹を壊す』


『えー、食べたいー……沙夜ちゃん、お願い……』


『うっ……全く……仕方ないな陽菜は……』


 暑いわ。心の中でそうツッコミつつ再び歩き出す。

 もう知り合いとは出会わないといいな、そう思っている時ほど知り合いに出会ってしまうものであると実感する。まぁ、知り合いというか家族というか。

 次に出会ったのは妹の日高凛子、通称リン。隣には友達と思われる女子がいる。

 正直出くわすことはリン達もここに来ると知った時から覚悟していた。しかし、手をつないでいる姿を見られるのは少し恥ずかしかった。

 とにかくポーカーフェイスを装って声をかける。


「よう、リン」


「あ、お兄に結姉……」


 リンは俺達二人を見た瞬間に表情を曇らせた。


「もしかしてこの人がいつも凛子が言ってるお兄さん? 優しそうだしカッコいいじゃん。彼女さんも美人だし」


「むー…………」


 頬を膨らませるリン。


「リン? どうかしたのか?」


「なんでもないっ!」


「おわっ」


 リンが怒気を含んだ声で言った。


「多分嫉妬してるんじゃないかと、凛子はお兄さん大好きですし」


「そ、そうなんだ……」


「ちょっ! 何言ってるの!? 好きなわけないじゃん! こんな奴!」


「嘘吐かないのー、凛子の話すことの大半はお兄さんのことじゃん」


 ムキになって反応したリンに友達の子はからかうような口調で言った。

 結局リンは膨れっ面のまま俺達と別れた。リンの友達が健気に慰めていたのが印象的だった。

 歩く途中、隣で浮かない顔をしていた結を不思議に思い問いかけた。


「どうかしたのか?」


「いや……私はこれで良かったのかなって」


 結は立ち止まる。

 俺達の横を通り過ぎる人達が見向きもしない中で「どういうことだよ?」と尋ねると結は不安に怯えるような口調で言った。


「ハルっちのこと、皆から奪っちゃったような気がしてさ……ハルっちは皆から慕われてるから」


 分からない。何故そんなことを結が気にするのか。


「なんでそんなこと気にするんだよ」


「え? ……だって、さっきのリンちゃんだって……」


 リンは俺達の関係を知った時に確かに悲しんでいた。そして今日も。きっと今頃友達に慰められている途中だろう。

 でも、そんなことを結が気にする必要は全くない。


「……結、ちょっとこっちに来い」


 結の手を引いて屋台同士の隙間を抜ける。祭りの賑わいの音が少しずつ遠くなっていく。

 木々が鬱蒼と生い茂る人気のない場所。ここなら静かだしゆっくりと話せるだろう。


「こんな所まで連れてきてどうしたんだ……?」


「静かな場所で話がしたかったんだ」


「……うん」


 静かに頷く結。暗い中でも分かるくらいに結は不安げだった。

 もうこれ以上不安にさせたくないし心配させたくない。

 つないでいた手を離し、俯いている結の体をそっと抱き寄せる。


「っ……ハルっち?」


「馬鹿だな……結は」


「なっ……」


「どうしてそんなことを気にするのかな」


「だって、私みたいな奴が……皆からハルっちを奪ってるから……」


「あー……そういう考え正直鬱陶しいぞ……それと別に俺は皆から慕われてるなんて思ってない」


「…………」


「それと、自分を過小評価すんなよ……結を選んだのは俺の意思なんだし」


 結が腕の中で震えているのが伝わってくる。


「それでも……私がリンちゃんを傷つけたことは確かだ……」


「誰かが幸せになれば誰かが傷つくんだ……それをいちいち悔やんでいたらキリがない」


 リンと俺の本当の関係を知っている知り合いはあまり多くない。しかし結は知っている。だからこそ、こうして葛藤しているのだろう。

 

「俺は結が好きだ。ただ、それだけだから」


「……私だってハルっちのこと好きだ……本当は誰にも渡したくない」


「ん……じゃあそれでいいじゃないか」


「ハルっち……」


 結は俺の首に腕を回し顔を近づけてきた。

 唇同士が触れ合い、やがて離れる。

 とろんとした結の眼差しに触発された俺はもう一度……その時だった。

 

「あ、二人ともいたー!」


 聞き慣れた声が草の擦れる音と共に聞こえてきた。


「二人ともこんなところで何してたの?」


「な、なんでもない!」


「そ、そうだぞ! 気にするな!」


 何も理解していない様子で首を傾げる風花に俺も結も慌てて今までのことを誤魔化す。


「? まぁいいや。もうすぐ花火が始まるから呼びに来たんだ」


「「花火?」」


 声が被る。


「うん。野上君に沙夜ちゃんに陽菜ちゃん、リンちゃんとか琴音先生も一緒にいるよ」


「凄いメンツだな……」


「きっといい思い出が出来るよー? だから二人とも早く早く」


 確かに個性的だが楽しい皆と一緒ならいい思い出が出来るだろう。

 そう思いつつ急かす風花の後に続こうとする。すると、結が片膝を着いた。


「結!? どうしたんだ!?」


 肩に手を置き顔を覗き込むようにして尋ねた。


「あはは……ちょっと歩きすぎて疲れちゃったぞ……」


 結は苦笑する。どうやらただの疲労のようだった。


「無理するからだ……ほら、立てるか?」


 手を差し伸べると結はその手をしっかりと握った。俺は結の腕を引く。なんとか立ち上がった結に次は腕を差し出した。


「ほら」


「……ありがと、ハルっち」


「いいんだよ……このくらい」


「えへへ……」


 結は以前のように俺の腕に自分の腕を絡めた。

 ぎゅっと腕を抱きしめ、俺の腕を支え代わりにする。

 

「おーい、私のこと忘れてないー?」


 風花の言葉で俺達は我に返りお互いに目を逸らした。それでも結は腕をぎゅっと抱きしめたままだったが。

 再び歩き出した風花の後に続く。

 結の合わせて歩くために速度は少し遅いが、それでも一歩一歩前に進む。二人で一緒に歩いていることを実感しながら、俺達は賑やかな祭りへと戻っていった。

 

次回がおそらく結ルートのラストですかね……

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