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僕らに吹く風に揺れる花  作者: ヨハン
未来へ走る少女
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伝える言葉

 今日は一学期の終業式だ。生徒達は本格的に浮かれている生徒が多い。夏休み明けにはどうなっているんだろうな。

 久代が学校に来てから今日までたった二日だけだったが、皆の間には楽しさや笑顔が戻っていた。やはり、久代の存在は俺達にとって大きなものだった。


「夏休みか、日高はどこか予定あるかい?」


「んー。特に」


「そっかー……僕はバイトにでも勤しむとするよ」


 野上はちゃんとやることがあるんだな。

 俺は考えてみたけど、毎日家事をしながらのんびり過ごす未来しか見えない。この時期は本格的にリンの世話が忙しくなるし。自分のことは自分でやれよと言いつつも結局俺がやってあげてるからな、色々と。

 皆の夏休みの予定……きっと風花や清川は色々と出かけることもあるんだろう。氷室も何かしらしてそうだ。

 でも……。

 俺は久代のことが気になっていた。アイツはあんな足で充実した夏休みを過ごせるのだろうか、と。出来ることなら力になりたい、それが今の俺の心情だった。

 校長先生の長い話も終わり、ようやく一学期最後のHR。よくある夏休みの過ごし方について説明を受け、いい夏休みだとか安全に気をつけろとかそんなテンプレの話を聞かされる。

 ようやく下校出来る時間になり、生徒達はぞろぞろと下校していく。

 俺は松葉杖を使って一歩一歩歩いている久代の隣を歩く。


「よう」


「ハルっち?」


「今日はどうやって帰るんだ?」


「親が迎えに来てくれるよ、流石に」


「そうか」


 なら良かった。


「なぁ、ハルっち」


「ん?」


「明日のことだけどさ……」


「あぁ」


 そういえば出かけるって約束してたっけ。

 久代の怪我のことや気持ちのことを考えていたら忘れかけていた。


「行きたいのは山々なんだけど……やっぱり……その……」


「どこに行きたい?」


「え? あの……こんな足じゃハルっちの迷惑に……」


「……あのなぁ」


 なんでそんなこと考えてるんだか。行きたいなら行きたい、それでいいのに。


「一度した約束はちゃんと守れって、小学校の時習わなかったか?」


「え……そんなことも習ったといえば習った……けど」


「じゃあ守れ。迷惑とか考えんな、てか全然迷惑じゃないし」


「……いいのか?」


「当たり前だろ。で、どこに行きたい?」


「っ……えへへっ。そうだな、どこがいいかな……」


 久代はやっと嬉しそうに笑い、少しの時間考える。

 そして口に出す。


「私は大きな公園に行きたいぞっ」






 

 空は青く澄み渡り、雲ひとつ無い快晴の天気。じりじりと肌を焼くような太陽光が真夏を感じさせてくれる。 

 俺は久代の家の前にいた。もちろん、久代を迎えに来た。

 しばらく待っていると玄関のドアが開き、久代が出てくる。松葉杖はしていない。

 太陽光を防ぐためであろう白い帽子、そして白い布地にレースの入ったワンピース。凄く女の子らしい格好に少し驚く。


「……変、か?」


 少し頬を染め聞いてくる久代。

 正直……物凄く可愛い。


「……可愛いと思うぞ……うん」


「え、あ、ありがと……」


 やっぱり久代も女の子なんだなぁと感心する。

 足を引きずって歩こうとする久代に俺は尋ねた。


「松葉杖はいいのか?」


「あんなの……その、で……デートには邪魔だから」


「っ……そ、そうか」


 恥ずかしそうにデートという単語を口にする久代。仕草がいつもと違いすぎてて心臓が大きく鳴りっぱなしだった。

 久代ってこんなに可愛かったんだな。


「そ、そのかわり……」


 久代は俺の腕に自分の腕を絡める。

 

「わっ……久代?」


「ハルっちの腕……借りるからな」


 腕にぎゅっと力を込めて久代は言った。






 大きな公園は自然の形が残っていて、ただ歩くだけでも結構楽しい。時間が過ぎるのはあっという間だった。

 久代は終始俺の腕にくっついていて、まるで恋人が出来たような気がした。

 クラスメイトなどに出くわさなかったのは幸運だったと思う。こんな姿見られたら絶対に付き合ってると思われるだろう。

 俺と久代は芝生の上に座りながら夕焼けの空を眺めていた。他の人の姿は見えず、広い空間に二人だけが取り残されたような感覚。


「久代……やっぱり、陸上辞めるのか?」


「……ずっと考えてたよ、あの日から」


 こんな時でもこんな話をしてしまう俺はムードブレイカーだと思う。でも、聞かずにはいられなかった。


「俺には……久代は諦めてないように見えた」


「え? そうか……?」


「うん……だって、お前……出来るだけ何にも頼らないで歩こうとしてるだろ?」


「今日はハルっちの腕借りたぞ」


「……あんまり支えてた感覚がしなかったのは気のせいか?」


 久代はあまり俺に体重をかけてはこなかった。ちゃんと自分で歩こうとしていたのは一緒に行動していればすぐに分かった。


「……ハルっちは鋭いな。そうだよ……私は、陸上を続けたい」


「……それは……良かった」


 俺は久代の言葉に感嘆の声を漏らす。


「両親の気持ちもちゃんと聞いたしな」


「そうなのか?」


「うん……両親は後悔しない選択をしろって言ってくれたよ」


 そして久代は続けることを選択した。まるで自分のことのように心から嬉しくなる。


「でも……正直自信はない。リハビリに耐えられるかも分からないし……」


 久代は不安そうな表情を浮かべる。やっぱり、まだ不安なんだな。

 

「んー……」


 俺はベンチから立ち上がり伸びをする。そして久代に向き直る。

 手を差し出しながら俺は言った。


「ちょっとだけ立てるか?」


「え……あ、うん」


 久代は俺が差し出した手をぎゅっと握り立ち上がる。


「どうしたら、久代の不安を和らげることが出来るかな」


 俺は静かな声で呟くように言った。


「どうなんだろうな……」


「じゃあ久代はどんな時に安心する?」


 久代は俺の質問を受け少し沈黙する。

 俯きながら俺の顔色を伺うような仕草を見せる。


「私は……えと……上手く言えないけど、今日は……なんか凄く安心したんだ」


 久代は俺の目を真剣な目で見据える。


「私はきっと、ハルっちと一緒にいる時が一番安心するんだ……」


「久代……」


 俺はずっと久代のために何が出来るか考えていた。そしてその答えは今日、こうして久代と過ごして見つかった。

 そしてまた、今の久代の言葉で俺の気持ちの答えも見つかった。


「っ……ハルっち……?」


 久代の体を抱き寄せる。そしてぎゅっと抱きしめた。

 

「俺は久代が好きだ。だから、俺は久代を支えたい。久代の不安を少しでも……和らげたい」


「っ……ハルっち……は、恥ずかしいぞ……」


 そう言いつつも久代は全く抵抗せず俺に体を預けている。


「駄目か?」


「……ううん。駄目なんかじゃない……」


 久代は軽く首を振る。


「だって……私だってハルっちのこと、好きだから」


 久代の腕が俺の体に回され力が込められる。

 今の俺はドキドキしてはおらず、ただ純粋に安心していた。

 

「以前言った確かめたいことってのは……ハルっちへの気持ちだったんだ」


「そうなのか……?」


「うん。それで、やっぱり間違ってなかった……今日一緒に過ごして、私はハルっちに恋をしてたって……やっと自覚したんだ」


 久代は言い終えると、俺の胸に顔を埋めた。


「こんなに優しいハルっちだから……大好きなんだ」


「……お前は中学の時、俺の支えになってくれてた……今度は俺の番。絶対に支え続けてやる……だから……」


「うん……」


 今ならば、その言葉はきっと軽々しくないだろう。

 久代は受け入れてくれるはずだ。だから、精一杯の気持ちを込めて伝えよう。


「諦めるな……結」

話をどこまで続けようか今迷ってるんですよね……

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