作られた笑顔
意外と話が続いていて自分でも驚きです。このモチベーションを保てますように……笑
久代が怪我をしてから二日後。久代は学校に来なかった。俺達はきっと明日は来る、そう思っていた。 しかし、その明日である今日も久代は登校してこなかった。
久代が来なくなってからの数日間。俺達は皆、学校生活を以前より楽しく感じられなくなっていた。
風花は持ち前の明るさを見せなくなり、代わりに悲しげな表情で久代を席を見つめることが多くなった。
風花と久代は親友だ。風花にとって親友である久代のいない日々はどこか寂しく物足りないのかもしれない。
これ以上待っていてもらちが明かない。今日、風花と一緒に久代の家を訪れてみようと思う。
「ハル君……私、どんな顔して結ちゃんに会えばいいかな?」
「……今までと同じ感じで。変に意識しない方がいいと思うよ」
「……そっか」
風花は元々乗り気ではなかった。きっと数日前に起きた久代との気持ちのすれ違いを気にしているのだろう。
そんな風花を俺は無理やりに近い形で誘い、久代の家に向かっている。
「……」
俺達は久代の家の前で立ち止まる。
恐る恐る玄関のチャイムを鳴らす。しばらくして、玄関のドアが開く。出てきたのは久代のお母さんだった。
少し驚いたような表情を見せるが、すぐに微笑む。
「あら……風花ちゃんに春斗君。久しぶりね」
「こんにちは」 「お久しぶりです」
「もしかして結に用事があるのかしら……?」
「はい」
久代のお母さんは浮かない顔で言った。
「あの子、家に帰ってきてからずっと部屋に引き篭もってるのよね……」
「そうなんですか……!?」
俺達は驚きの声を上げる。
きっとまだ立ち直れていないのかも、そう思ってはいた。ただ、いざそれが事実になるとどうしていいか分からなくなる。
いつも通りに接すればいい、さっき風花にはそう言った。でも、それが正しいのかは分からない。
久代は今きっとナーバスな状態にあるだろう。俺達は今の彼女とどう向き合えばいいか、ここに来てそんな課題を突きつけられる。
「やっぱり、私達がちゃんとあの子のケアをしないで無神経なこと言っちゃったから……」
久代が気にしていた言葉のことだろうか。
「あの……詳しくお聞きしてもいいですか?」
「えぇ……そうね、私達は元々あの子が陸上することに反対してたのは聞いたかしら?」
「はい……」
久代はそれをバネにして今まで頑張ってきたんだっけ。
「最初は反対だったのよ。もっと女の子らしくなってほしかったから。でもね……一生懸命頑張るあの子を見て、いつの間にか凄い所まで行っちゃったあの子を見て、いつの間にか本気で応援するようになったの。けど、数日前に怪我をしてしまったあの子に……『もう辞めていい』って言ったわ……」
「……」
久代はその言葉を受け、陸上を諦めようとしている。本当だったら今そのことを咎めても間違いではないかもしれない。でも、久代のお母さんの話を聞いているときっと何か裏があると思った。
「もうあの子は十分頑張ったし、ここで諦めても誰も馬鹿にしたりしない……そう思ったの。それに、きっと何も言わなければあの子は無理をしてまで走ろうとするわ……そうなってもらいたくないの……」
娘の体を気遣うのは親として当然の感情なのかもしれない。俺は誰かの親になったことはないから詳しくは分からないけど、それだけは分かる。
「ごめんなさいね。玄関先でこんな話をして……」
「いえ……ありがとうございました」
「家にあがってちょうだい? きっと結も二人が来たならきっと喜ぶと思うから……」
俺達は家の中に招かれ、久代の部屋の前に立つ。
「久代」
無言だった。しかし、微かに衣擦れの音が聞こえる。きっと布団によるものだろう。
風花は久代の部屋のドアに手を添え静かな声で言った。
「結ちゃん……開けてくれないかな? 結ちゃんに会いたいの」
無音がしばらく続く。駄目か、そう思った刹那--ドアの鍵が開く音がする。
「っ!!」
風花は慌てて部屋のドアを開ける。
暗い部屋の中には一人の人影。久代はパジャマ姿だった。
「……風花、ハルっち……来てくれたのか」
「結ちゃん!」
「わっ……風花……苦しいよ……」
きつく抱きしめてくる風花をそう言いながらも優しく抱きしめ返す久代。
彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。
「久代……足は……」
久代は明らかに足を引きずっている。近くの壁には松葉杖が立て掛けられていた。
「歩くのがやっとだよ……はは……」
無理をして笑おうとする久代の姿に胸が締め付けられる。
どうして辛いのを隠そうとするんだ。
「……急に押しかけて悪いな」
「いや……嬉しいよ。風花もな……ありがと」
「うん……」
風花は久代の肩に顔を埋める。
「二人とも、この間はごめん。いっぱいいっぱいで言わなくていいことまで言っちゃって……」
「いや……久代の気持ちを考えたら俺達が間違ってたと思うからさ……謝らないでくれ」
「私……無責任なことばっかり言っちゃって結ちゃんを傷つけた……私こそごめんね」
久代はあの日、軽く自暴自棄になりかけていた。でも今はだいぶ落ち着いたらしい。
俺は少しだけ安心する。しかしまだ不安な要素も残っていることに変わりはない。
「久代……学校には来ないのか?」
ベッドに腰をかけている久代に俺は尋ねた。
「はは……そうだな。どうしよう……」
久代は困った時は苦笑いを浮かべることが多いように感じる。
きっとまだ迷っているのだろう。
正直な気持ちをぶつけたら、久代は応えてくれるだろうか。俺達は久代がいないと毎日がつまらないことを実感させられた。
俺達には久代が必要だった。
「来いよ。久代がいないと毎日つまんねぇ」
「え……?」
驚いたような表情。
「そうだよ結ちゃん……陽菜ちゃんも野上君も寂しがってるし、沙夜ちゃんもきっと寂しいと思うから。もちろん、ハル君も私もね……」
「……ふふっ。皆仕方ないな……私がいないと駄目なら行かないとな、学校」
久代は浮かない顔をしながらも無理やり笑顔を作って言った。
また、だ。久代は無理やりにしか笑えていない。きっとまだ気持ちの整理がついていないんだろう。
どうすれば久代に笑顔を取り戻せるのか。分かれば苦労しないその疑問を俺は抱き続けていた。
更新速度はばらばらですが出来る限り三日に一話くらいは投稿したいです。今の所一発書きに近いので……(汗) 他の小説は更新止まってるし……あぁぁ




