表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キキとあほうとにゃ  作者: そよかぜ
12/24

10

「連れてけ」

「は、」

 俺の命令を素直に聞き、騎士たちはぴくぴくと痙攣けいれんしているゲローブを牢屋へと連れて行く。いや、牢屋がどこにあるのか知らないけど。

「キキ君」

 殴って痛む手をさすっていると、オルタが俺に声をかけてきた。ミーニャも一緒だ。

 しかし、まずは話よりもトビが先だ。

「悪いんだが、話は後にしてくれ。怪我人がいるんだ」

「トビさんなら、すでに街の人たちが医術院、キキさんの世界でいうところの病院に運んで行きましたにゃ」

「そうか、対応が早くて助かる。リーリエは?」

「リーリエちゃんはトビさんに着いていきましたにゃ」

 大丈夫か大丈夫か、と涙目で付き添うリーリエの姿が浮かぶ。あいつのことだ、まあ、死ぬことはあるまいて。

「キキ君、改めて自己紹介をしたいんだけど、いいかい?」

「ああ、頼む」

「私はオルタ、この街、オルベールの元領主にして元貴族だった者だ」

「喜衛嬉々、呼び方はさっきみたいにキキで頼む」

 言って俺は手を差し出した。はたして、この世界に握手はあるのだろうかね。

「わかった、キキ」

 オルタは片方しかない手で、がっちりと握手を交わした。握手ってのは世界共通なのかもな。

「君とトビ君のことは、ミーニャ君から少しだけ聞かせてもらったよ。なんでも、異世界から来たらしいね」

「ん、まあな。って信じるのか?」

 自分で言うのもなんだが、うさんくさいと思うんだが。

「信じるさ。危険をかえりみず、友人のために無茶をするような君だからね」

 きらりとオルタの歯が光る。なんというさわやかスマイルだ、さぞ、モテることだろう。友人のため、というのは違うんだが……まあ、別に訂正する必要もないだろう。

「しかしだ、随分ずいぶんと綱渡りだったね。あまり関心のできるやり方じゃあないね」

「そうですにゃっ、凄い心配したんですにゃ!」

「悪い悪い。で、お前らはどのあたりから見てたんだ?」

 ミーニャには適当にあやまっておき、俺は気になっていたことを訊いた。

 俺がゲローブに階位を聞かれ、答えられずにピンチにおちいったところでオルタたちがやってきた。しかも、窮地きゅうちを脱する見事なあいの手をたずさえてだ。これを偶然という一言でかたずけてしまうのは、いささか無理があるというものだ。

 間違いなくどこかで状況を見ていた、と考えるのが妥当だとうだろう。

「キキが、貴族だ、と名乗ったあたりからだよ。それまでは仲間を集めていてね」

「街に出ていた騎士が領主館に引き上げたのを見計らって、合流した……というところか?」

 でないと、これだけの武装集団が集まることはできないはずだ。

「正解だ。本当はすぐにでも敷地内に乗り込むつもりだったけど、なにやら君が面白いことを言っていたのでね。機会をうかがってから乗り込んでいったんだ。その結果、誰も死なずに済んだので最良の機会で乗り込めたと思っているよ」

「結果だけ見ればな」

「その結果が重要じゃないか。それにしても、キキの状況把握じょうきょうはあくと機転の良さには舌を巻いたよ」

 オルタの言葉を訊いた街の人々が、「貴族を相手に度胸があるよ」「金と街を奪うだなんてたいしたもんだ」「スカッとしたよ!」などと口々に言い出した。貴族、というよりは、ゲローブの嫌われぶりがよく分かる。

 褒められて悪い気はしないが、こう、背中がかゆい。

「これからキキはどうするんだい? オルベールの領主として、私たちをみちびいてくれるのかい?」

 ピタリと、街の者達が黙って静かになった。

 まあ、答えは決まっているよな。

「やるわけないだろうが、あほう。これはお前にやるよ」

 言って認可状をオルタに手渡した。

「……そうか。残念だ」

「言うまでもないが、目立った政策をとらず、ゲローブからあんたに変わったと王都に知られなければ、オルタが統治していても問題はないはずだ。ゲローブの処遇しょぐうだが、任せるよ」

「そうだね。でも、私で良いのだろうか?」

「それを訊くのは俺じゃないだろ」

 あごをしゃくり、オルタの後ろを差す。

 オルタは振り返って街の住人を見回す。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

「……私が不甲斐ふがいないせいで、ゲローブなどという下賤げせんやからに街を奪われ、重い税をされ、みなを苦しめてしまった。もう一度、皆が機会をくれるなら、私は、オルベールの領主となって、共に歩んでいきたい。どう、だろうか?」

 しばしの静寂せいじゃくのあと、歓喜かんきの声がひびき渡った。

 空気が震える。喜びだけが満ちあふれている。

 ずっとこの時を待っていたのだろう、オルベールの住人達は。

 いつかゲローブを追い出し、また、オルタが街を治めるこの日を待ち望んでいたのだろう。

 鳴り止まぬ歓喜の声を聞きつつ、俺は一人そう思っていた。と、

「キキさん」

 ミーニャが声をかけてきた。

「どうした。お前も街のやつらに混じってさけんできたらどうだ?」

「キキさんは混じらないのですかにゃ?」

「俺は関係ないだろ。この街の住人でもなければ、この世界の人間ですらないんだ」

「でも、こうして皆さんが喜べるのはキキさんのおかげですにゃ」

「否定はしない。けれども、俺が貴族に喧嘩けんかを吹っかけたのは街の住人のためじゃない、オルタが領主になったからといって、別に嬉しくもなんともない」

「リーリエちゃんが悲しんでいたから、ですにゃ」

 分かっていますよ。とミーニャは言いたげに、隣りでにっこりと微笑んでいる。

「結局は、俺がムカついたから。ってのが正解なんだがな」

 それが本音だ。

 珍しいという理由で物扱いされた者が目の前に居て、そして泣いていたら腹の一つや二つも立つってものだろう。強姦された子供が目の前で泣いていたら、と考えると分かり易いかもしれない。

 言い訳だ。頭に血を昇らせ、後先考えずに行動した事への。けっして良いことではないから……

 もしかしたら……俺はトビ以上に単純なのかもしれない。

「もしも、」

 自分の短絡的思考たんらくてきしこうあきれていると、なにやらミーニャが聞きたそうにしていた。

「もしも、なんだ?」

 うつむき、恥ずかしそうにしているミーニャ。なんだ、また優しくしてくださいとか気持ちの悪いことをぬかすんじゃなかろうな、こいつは。

「もしも、もしも……ミーニャがピンチになったら、白馬に乗って助けにきてくれますかにゃ?」

 行くかボケぇ、どんだけメルヘンなんだよこいつ。助けに行くんなら戦車に乗っていくわっ、なんなら白くってから行ってやるよっ。

「白馬は無理だ。でも、ま、トビと一緒に助けに行く可能性はゼロではない」

「そこは100%助けに来てくださいよぅ」

 何が「よぅ」だ。気持ち悪い、ぶりっ子が。殺意の波動が目覚めるだろうが。

 いじけてしまったミーニャを他所よそに、いつの間にか、「祭りをするぞ」と騒ぎ出している街の住人に目を向ける。

 俺とトビがこれからどうするのか、どうやったら元の世界に帰れるのか、考えることは多々ある。あるが、取りあえず、それは祭りが終わった後に考えることにする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ