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キキとあほうとにゃ  作者: そよかぜ
11/24

「落ち着くんだっ!」

 続いてオルタが喝破し、オルタ側は動きを止めた。

「止まるでない、行けっ、平民どもを切り捨てよっ!!!!」

 一度はひるんで動きを止めたものの、騎士たちはクソ貴族の叱咤しったで、再度、剣に力を込める。

 無理か、止まらないかっ。

「キキの言葉に反するはマーロン公に反するも同義ぞ!!!!!」

 今度は騎士に向けられたオルタの喝破、ピタリと、騎士たちが動きを止めた。

 なるほど、クソ貴族よりもマーロンって人のほうがくらいが上なわけか。

「オルタの言う通りである、私の言葉はマーロン公の言葉と思えっ。お前もだ、良いなっ」

 オルタにすかさず追従ついじゅうし、さらには騎士たちだけでなく、デブにも言いふくめておく。

「う、ぬ……」

 ひしゃげた声でうめくデブ。

 少し冷やっとしたが、これはいい具合に展開が転んだものだ。いま、この瞬間、俺の立場はこの場にいる誰よりも上になったのだ。

「……オルタ。街の者に口止めをした話とは、どのような話なのだ?」

 場が静かになったのを見計らい、さきほど中断された話の続きをうながす。

「その話をする前に、まずは見て欲しい子がいるんだ。リーリエ、さあ、こちらへ」

「リ、リーリエか!!!?」

 突然の指名にリーリエはぴくりと反応し、おびえた様子でミーニャの後ろに隠れてしまった。

「オルタ、なんだか、怖いぞ……」

 空気の読めないやつだな、いや、今の状況を理解できてないのか。

「キキ、彼女は見ての通り、、、妖精族だ」

 うん、知ってる。知ってはいるが、リーリエが自分のことを珍しいと言っていたので、知らない風をよそおってオサレに驚いておくことにする。

「なん……だと……?」

「そこにいるゲローブはね、他種族である妖精族の彼女を物のようにあつかい、さらには手をあげた。キキなら、これがどういう意味か分かるね?」

 ようは、ゲローブのしたことが妖精族に知られたら大問題ってことだ。

「なるほど。外交問題を避けるため、オルタは街の者を口止めをしたわけか」

「そういうことだよ」

「と、言っておるが、実際はどうなのだ。デブ……ではない、ゲローブ」

「そのようなこと、嘘に決まっておろう。証拠はあるのか、、オルタ!!」

 頭の悪い悪人ってのは、すぐに証拠を出せだの見せてみろという。まったく、なってないな、ここは俺が賢い悪人ってのをみせてやろうか。

「ゲローブよ。証拠などはどうでも良いことだ」

「それは、どういう意味だ」

「証拠というものは作るもの、と言っているのだよ」

「金と権力にものを言わせ、捏造ねつぞうするつもりか、貴様」

 みるみるうちにゲローブの顔が赤くなっていく。すんごい怒ってらっしゃるよ。赤いカエルみたいだ。

「落ち着きたまえ。いいか、その逆も可能だということを忘れてはいかんよ?」

 俺に金をめば、証拠があったとしても無かったことにしてやる。そう言ってるわけだ。

「は……そうか、そういうことか」

 俺の意図を理解したゲローブに笑みがこぼれだす。一言でいおう、気持ち悪いと。

「いくらだ、いくらだせばいい?」

「今回はかね以外のものにしようか。そうだな、領主館ではどうだ?」

「領主館だと? つまり、オルベール領主の座をよこせということか?」

「理解が早くて助かるね」

「いいだろう。このような辺境の地などくれてやるわ。もとより王都に戻りたかったのだ、ワシは」

 言うなり、ゲローブはふところから丸められた紙を取り出した。

「オルベール領主の認可状にんかじょうだ、受け取れ」

「ああ、すまないな。しかし、、手続きなどは必要ないのか?」

 本来、こういった引き継ぎには面倒な手続きが必要で、正式な許可がないとダメだと思うんだが。

「王都に戻ったらワシが手続きをしておく、なに、金を積めば万事巧くいく」

 王都に帰られると、俺が貴族じゃないことがバレるじゃないか。帰すわけないだろうに。

「ああ、分かった。それよりゲローブ」

「なんだ、まだ、何かよこせと言うのではあるまいな?」

 言わないっての。

 だって、お前にはもう、何もないんだから。

「早く敷地内から出て行け」

「分かっておる。荷物をまとめたらすぐに出ていくつもりだ」

「どこに行くんだ、出口は向こうだぞ?」

 館に向かおうとするゲローブをに向かって言い放った。ゲローブは、どういうことだと言いたげに俺を不思議そうに見つめている。

「……そうか、そういうことだったのか。キキはとんでもない詐欺師さぎしだな。お金に目がくらんんでしまったのかと、少しばかりあせってしまったよ」

 静かに事の成り行きを見守っていたオルタだが、俺の目的に気がついたらしく、声をあげて笑い出した。彼以外はいまだに気が付いておらず、一様いちようにぽかんとしている。

「おめでたい頭だな、クソ貴族。お前にはまとめる荷物なんて有りはしないんだよ」

 口調を変えておく必要もなくなり、俺は元の口調へと戻して言う。

「急に話し方を変え、貴様は何を言っておる。館にはワシのコレクションや財産、荷物が置いておる」

「あほうなことをぬかすな。領主館内の敷地にあるものは全て俺のものだろうが」

「あほうなことを言っているのは……まさか……ワシを、、はめたのか?」

 いまさら気づいたのか、あほうが。賢い悪人ってのはな、合法な手段で奪うんだよ。

 認可状を持つ領主たる俺が、領主の持ち物たる館に入るなと言えば、たとえゲローブですら入ることは許されない。

「貴様っ、いくら街の領主だとはいえ、好き勝手できるわけではないぞ! 王都にて貴様を査問会議さもんかいぎにかけてくれるわっ」

 わかってないな。領主だということは、こんなこともできるわけだ。

「騎士隊に命令する。そいつを捕えて牢屋ろうやに放り込め」

「し、しかし、、相手は貴族のゲローブ様です、そのようなことは……」

 難色なんしょうくをしめす騎士たち。けれども、しぶるのは予想通りだ。

「何を言っている、ゲローブなどという貴族は聞いたことがない。そいつはただの侵入者だぞ」

「き、貴様……!!!!!」

「お前らは領主たる俺の言うことが聞けないのか? 命令違反で首を跳ね飛ばされたいのか?」

「い、いえっ」

「なら、早く侵入者を拘束こうそくして牢屋に放り込め」

「はっ」

 命令に従って騎士たちが一斉に動き出す。そして、ゲローブの両腕を掴むとずるずると引きずって行く。

「は、離せ、離さぬかっ」

 わめき散らすゲローブを見つつ、俺は、一つ忘れていたことを思い出した。

「待て、止まれ」

 騎士たちを呼び止めると俺はゲローブに近づく。

「歯を食いしばれ」

 まあ、食い縛る時間なんてやらないが。

 全身全霊の力を込め、俺は、醜悪しゅうあくな性格をあらわしたゲローブの顔面へと、拳を叩き込む。

 そして言ってやる、なに、たいしたことじゃない。

「ムカつくんだよ、お前」

 所詮しょせんはただの感情の押しつけだった。 

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