ぼくは雑草。
ぼくは、雑草。
名前も分からない、花も咲かない、ただの葉だけの雑草。
みんなに嫌われて生きている。
なぜ、ぼくは生きているのだろうか。
いつも思う。
ぼくなんて、生きる価値なんかないのに。
ぼくなんて、みんなに嫌な思いしかさせないのに。
なぜ、ぼくは生きているの?
ぼくは、死ねない。
引っこ抜かれても、また生えてきてしまう。
ぼくは根が深いから、うまく抜けないんだ。
ごめんなさい。
いつも思う。
抜けなくて、ごめんなさい。
死ななくて、ごめんなさい。
毎回抜けないたびに、繰り返し、繰り返し。
なぜ、ぼくは生まれてきてしまったのだろうか。
なぜ、ぼくを生んだの?
いつも思う。
だれも、ぼくなんか必要としないのに。
ただ、じゃまなだけなのに。
親も、神様も、だれもいないから聞けないけど。
ぼくは、いるはずのないだれかに問いかける。
なぜ、ぼくは生まれてしまったの?
そんな、ある日のことだった。
ぼくのとなりに、黄色いたんぽぽが咲いた。
きれいな黄色い花を持つ、明るいたんぽぽが。
彼女は、光に照らされればその美しい黄色い花を輝かせ、風に吹かれれば、その細い体を揺らした。
ときどき見せる、明るい笑顔。
その笑顔にぼくの心はどきんと揺れ、同時に憎く、ねたましく思った。
「花、きれいだね。」
ある日、ぼくは彼女に言った。
すると彼女はにこっとほほ笑んで、
「ありがとう。」
そうぼくに向かって言った。
ぼくは、そんな彼女に複雑な感情をいだいた。
そして、顔にやるせない表情を浮かばせる。
彼女はそんなぼくの様子を見ると、今度は空をあおぎ見て、初めて悲しそうな顔をした。
「でもね、お花があってもいい事なんかないよ。」
「だって、種ができるもの。」
「たくさん種を飛ばすから、私たちも、みんなに嫌われるの。」
そういう彼女の顔からは、笑顔が全部消えていて、代わりに花びらに光るものがあった。
「でもね、それでも私たちは、深く根をはって生きてる。」
「一生懸命に生きてる。」
「どんなにみんなに嫌われたって、それでも頑固に生き続けるの。」
「ねぇ、どうして?なんでそんなにがんばって生きてるの?」
そんな彼女にぼくは聞いた。
そしたら彼女は、花びらにきらりと光るものを持ったまま、また明るい笑顔になって、ぼくに言った。
「生きているから生きている。」
「生きているものに、必要ないものなんていないのよ。」
「きっと今、私たちが生きているのはなにか理由があるはずだから、その答えを見つけられるようにできるかぎり精一杯、終わりが来るまで生きなくちゃ。」
彼女はぼくにほほ笑んで、そう自信を持って言った。
そのとき、彼女の花びらから光るものが一滴こぼれ落ちて、茶色い地面を少しぬらした。
それからしばらく時が経ち季節が変わると、彼女もその花の色を変えた。
きれいな黄色い花から、ふわふわやわらかな真っ白いわたげに。
やっぱりそんな彼女のことも、ぼくはきれいで美しいと思った。
「わたげ、きれいだね。」
ぼくは彼女に言った。
すると彼女はにこっとほほ笑んで、
「ありがとう。」
そうぼくに言った。
ぼくはそんな彼女に、今度は本当に心がどきんと揺れた。
そんなとき、風が吹いた。
その風は、彼女のわたげをさらっていった。
「もう、お別れだね。」
「また会える日まで、さようなら。」
そう言って、彼女は風に吹かれて飛んでった。
いつか彼女があおぎ見た、その大きな青空へ。
風に乗ってふわふわと、気持ちよさそうに飛んでいった。
ぼくはそんな空を見て、彼女の言ったことを思い出した。
「生きているから生きている。」
「生きているものに、必要ないものなんていないのよ。」
その言葉の中に、ぼくはやっと答えを見つけた。
そのときぼくは、ぼくの中の何かが軽くなった気がしたんだ。
ありがとう。
そう空につぶやいて、ぼくは初めてにこっと笑った。
それから、彼女はもうあの笑顔を見せなかった。
彼女は茶色くなって、地面と一緒になっていった。
けれど、ぼくは信じてる。
いつかまた、あの笑顔を見られると信じて。
ぼくは、雑草。
名前も分からない、花も咲かない、ただの葉だけの雑草。
みんなに嫌われて生きている。
だけど、ぼくは一生懸命生きている。
深く根をはって生きている。
生きているから、生きている。
今度は、彼女のように堂々と。
自信を持って生きている。