第7話 それでも、世界は放っておかない
角笛の音は、ひとつではなかった。
二つ、三つと重なり、辺境には不釣り合いな規律正しさを帯びて近づいてくる。
騎士団だ。
人々が道を空けるより早く、
金属音を響かせて、鎧姿の一団が市場になだれ込んできた。
「全員、その場を動くな!」
号令が飛ぶ。
だが、誰も逃げようとはしなかった。
逃げる理由も、逃げる余力も、すでになかった。
騎士たちは、倒れた露店、割れた石畳、
そして空を仰ぐ人々の視線を、一瞬で理解した。
最後に、その視線が集まる先――
カイルのもとへと向けられる。
「……君が、畑の主か?」
前に出てきたのは、年嵩の騎士だった。
声音は落ち着いているが、目だけが異様に鋭い。
「そうだが」
「先ほど、この地に竜が現れたと報告があった」
「来たな」
それだけ答えると、騎士は一瞬、言葉を詰まらせた。
「……その竜が、君に跪いた、と」
市場が、再び静まる。
カイルは少し考え、正直に答えた。
「跪いた、というより……
野菜を嗅いで、座った」
騎士の隣で、書記官がペンを落とした。
「確認が必要だ」
騎士はそう言って、深く息を吸う。
「畑を見せてほしい。
これは、領主預かりの案件になる」
その言葉に、周囲がざわめいた。
“管理”“調査”“報告”
聞き慣れた、人の世界の言葉だ。
カイルは、畑のある方向を見た。
「荒らさなければいい」
「……善処する」
その返答に、確信はなかった。
だが、カイルはそれ以上、何も言わなかった。
言っても仕方がないことを、彼は知っている。
畑は、預かりものだ。
だが――
ふと、竜の言葉が脳裏をよぎる。
「奪わず、育て、分ける者」
空を見上げる。
白銀の影は、もうない。
「……さて」
カイルは籠を担ぎ直した。
「帰るか」
世界がどう動こうと、
畑は、今日も水を欲しがる。
そして彼は、まだ知らない。
この一歩が、
人と竜と世界樹、そのすべてを巻き込む始まりになることを。
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