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第4話 襲来――だが、剣は振るわれない
それは、降りてきた。
風圧が市場を叩き、露店の布が引きちぎられる。
石畳に亀裂が走り、誰かが転んだ。
「ドラゴンだ……!」
叫びが重なり、悲鳴に変わる。
人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
冒険者たちは剣を抜いたが、足が前に出ない。
力量差が、理解できてしまったからだ。
巨大な白銀の竜。
鱗は朝の光を弾き、眼は氷のように澄んでいる。
咆哮――は、なかった。
ただ、重い息遣いだけが響く。
それが逆に、恐怖を煽った。
「……攻撃、来ない?」
誰かがそう呟いた瞬間、
竜の視線が、ゆっくりと動いた。
人ではない。
武器でもない。
建物でもない。
露店の一角――カイルの前で、止まった。
正確には、籠の中。
竜は首を下げ、鼻先を近づける。
深く、息を吸い込んだ。
空気が、震えた。
「……な、なんだ……?」
カイルは後ずさることもできず、その場に立ち尽くす。
心臓が痛いほど鳴っている。
竜の眼が、細められた。
怒りではない。
殺意でもない。
――戸惑い。
そして、微かな、懐かしさ。
竜は、もう一度だけ息を吸い、
ゆっくりと前脚を折った。
重い音を立てて、膝が地につく。
市場が、完全に沈黙した。




