第31話 評価された者、切り捨てられた畑
夜は、静かだった。
領主館を出たカイルは、
まっすぐ畑へは戻らず、
街外れの小高い丘に腰を下ろしていた。
空を見上げる。
星は、いつも通りだ。
だが――
見られている感覚があった。
視線ではない。
敵意でもない。
もっと、
冷静で、
重たいもの。
――測られている。
その瞬間、
夢とも現実ともつかない感覚が流れ込む。
言葉はない。
姿もない。
ただ、
ひとつの感情だけが、
はっきりと伝わってきた。
「条件を出した」
それだけだった。
次に来たのは、
評価だ。
良いとも、悪いとも言わない。
ただ――
「対話の段階に進んだ」
その感覚が、
竜のものだと、
なぜか分かった。
カイルは、
息を吐く。
「……そうか」
跪いた理由が、
少しだけ、分かった気がした。
力でも、
作物でもない。
線を引き返したからだ。
同じ頃。
領主館では、
別の会話が行われていた。
「……交渉は、決裂だな」
騎士団長の声は、低い。
「はい」
書記官が、即答する。
「彼の条件は、
制度に落とし込めません」
領主は、長く黙っていた。
そして、
静かに言った。
「では、次の段階だ」
空気が、変わる。
「畑は、
“危険な非管理領域”として扱う」
その言葉に、
誰も異を唱えなかった。
「直接介入は、まだしない」
「だが――」
領主は、視線を上げる。
「準備は始める」
それは、
排除でも、
没収でもない。
もっと、
行政的で、
冷酷な言葉だった。
「近づけないための、
正当な理由を作れ」
騎士団長が、
短く頷く。
「事故。
災害。
安全確保」
どれも、
正しい理由だ。
「竜が動けば、対応する」
「動かなければ?」
領主は、
一瞬だけ目を細めた。
「……なら、
人の世界の問題だ」
夜風が吹く。
丘の上で、
カイルは立ち上がった。
「……来ないな」
竜は、来ない。
助けもしない。
だが――
見ている。
それで、十分だった。
畑の方角を見やり、
小さく呟く。
「条件は出した」
次に線を越えるのが、
誰なのか。
もう、
はっきりしていた。
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