表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
農民の俺が育てた作物、なぜかドラゴンに跪かれて管理社会が崩れ始めました  作者: 森乃こもれび


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/55

第30話 条件が拒まれる理由

 沈黙は、短くはなかった。


 条件は出そろっている。

 追加も、修正も、余地がない。


 領主は、しばらくカイルを見つめていたが、

 やがて、ゆっくりと口を開いた。


「……君の言うことは、理解できる」


 その言葉に、

 誰もが一瞬、期待する。


「だが」


 次の一語で、

 空気が締まった。


「それは、

 制度ではない」


 領主の声は、静かだった。


「思想だ」


 カイルは、何も言わない。


「線を引かない。

 測らない。

 指示しない。

 結果を目的にしない」


 一つずつ、反芻する。


「それは、

 “信じる者が守る前提”のやり方だ」


 書記官が、補足する。


「誰がやっても同じ結果になる、

 という保証がありません」


「保証なんて、

 畑にはない」


 カイルは、即答した。


「だから、

 俺がやる」


 領主は、首を振る。


「それが、問題だ」


 その言葉は、

 冷たくはなかった。


 むしろ、

 誠実だった。


「社会は、

 “誰がやっても同じ”でなければ、

 成り立たない」


 それは、

 管理社会の根幹だった。


「君の条件は、

 君個人に依存している」


「当たり前だ」


 カイルは、言った。


「畑は、

 人を見る」


「だからこそ、だ」


 領主は、

 はっきりと否定する。


「人を見る仕組みは、

 制度にできない」


 書記官が、

 さらに言葉を重ねる。


「仮に、

 今回だけは成功したとしても……」


「次は?」


 その問いは、

 重かった。


「君が病に倒れたら。

 畑を離れたら。

 あるいは――

 亡くなったら」


 会議室が、

 完全に静まる。


「その瞬間、

 管理不能になる」


 それは、

 悪意ではない。


 責任の話だった。


 カイルは、

 ゆっくりと息を吐いた。


「……なるほど」


 否定はしない。


「要するに」


 言葉を選ぶ。


「俺を、

 信用できない」


 領主は、

 すぐには否定しなかった。


 その沈黙が、

 答えだった。


「信用ではない」


 やがて、領主は言う。


「依存できない、という話だ」


 その違いは、

 大きかった。


「社会は、

 個人に依存することを、

 恐れる」


 カイルは、

 小さく頷いた。


「畑も、

 同じだ」


 その一言で、

 すべてが繋がった。


 管理社会と、

 畑。


 どちらも、

 依存を恐れている。


 だが――

 恐れ方が、違う。


「畑は、

 奪われることを恐れる」


「社会は、

 制御できないことを恐れる」


 エルドが、

 低く呟いた。


 誰も、

 否定しなかった。


 領主は、

 深く息を吸う。


「君の条件は、

 受け入れられない」


 正式な結論だった。


「このままでは、

 我々は、

 畑を“問題”として扱わざるを得ない」


 その言葉に、

 騎士が一人、

 わずかに身を固くした。


 カイルは、

 静かに立ち上がる。


「……分かった」


 怒りはない。

 失望もない。


「話は、

 ここまでだな」


 領主は、

 わずかに目を伏せた。


「……そうだ」


 それが、

 決裂の合図だった。


 カイルは、

 扉に向かって歩き出す。


 背後から、

 領主の声が追いかける。


「君を、

 罪には問わない」


「畑も、

 当面は、

 手を出さない」


 それは、

 最後の譲歩だった。


 カイルは、

 振り返らずに答えた。


「……それでいい」


 だが、

 その“当面”が、

 どれほど短いかを、

 全員が理解していた。


 扉が閉まる。


 会議室に残った者たちは、

 同じことを思っていた。


 ――次は、

 穏やかでは済まない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ