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農民の俺が育てた作物、なぜかドラゴンに跪かれて管理社会が崩れ始めました  作者: 森乃こもれび


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第29話 カイルの条件

 カイルは、しばらく黙っていた。


 条件を考えていたわけではない。

 すでに、決まっていたからだ。


「難しい話じゃない」


 そう前置きして、

 ゆっくりと口を開く。


「俺は、

 畑を守りたい」


 領主は、頷いた。


「それは、我々も同じだ」


「違う」


 即答だった。


 声は低く、

 だが、迷いはない。


「守り方が違う」


 会議室が、静まる。


 カイルは、指を一本立てた。


「一つ目。

 畑に、線を引かない」


 書記官が、思わずペンを止める。


「柵も、縄も、

 境界標もだ」


 領主が、ゆっくりと問う。


「安全は、どう確保する」


「近づかせないことが、

 安全じゃない」


 カイルは、淡々と言った。


「畑は、

 閉じられると、

 応えなくなる」


 反論は出なかった。

 事実は、全員が見ている。


 カイルは、二本目の指を立てる。


「二つ目。

 測らない」


 書記官が、眉をひそめる。


「数値も、

 記録も、

 統計もだ」


「それでは、

 管理が――」


「できない」


 被せるように、言った。


「だから、条件だ」


 ざわめきが起きる。


 カイルは、構わず続ける。


「畑は、

 比較されると、

 黙る」


 誰も、否定できなかった。


 三本目の指。


「三つ目。

 指示しない」


「作付け量も、

 品種も、

 収穫時期も」


 領主が、目を細める。


「それは、

 完全な放任ではないか」


「違う」


 カイルは、首を振る。


「俺が、世話する」


 そこに、重みがあった。


「ただし、

 結果を目的にしない」


 その言葉に、

 書記官の一人が、

 はっきりと顔を曇らせた。


「……収量を、

 考えないと?」


「考えない」


 カイルは、きっぱりと言う。


「必要な分だけ、

 育てる」


 四本目の指。


「四つ目。

 分ける」


「独占しない。

 売り物にしない。

 武器にしない」


 その瞬間、

 会議室の空気が、

 明確に変わった。


 それは、

 社会の原則への挑戦だった。


 領主が、

 ゆっくりと背もたれに体を預ける。


「……それが、

 君の条件か」


「全部だ」


 カイルは、

 指を下ろした。


「これを守れるなら、

 俺は畑に立つ」


「守れないなら?」


 短い問い。


 カイルは、

 迷わず答えた。


「畑から、

 手を引く」


 静まり返る。


「……脅しか?」


 騎士の一人が、

 低く問う。


「違う」


 カイルは、

 はっきりと言った。


「畑が、

 俺を必要としなくなるだけだ」


 その言葉は、

 威圧でも、

 交渉術でもなかった。


 事実の提示だった。


 エルドが、

 思わず、息を呑む。


「……それでは」


 書記官が、

 震える声で言う。


「社会が、

 成立しません」


 カイルは、

 初めて、

 相手の目を真正面から見た。


「成立しないなら」


 一拍置いて、続ける。


「――その社会は、

 畑を必要としてない」


 誰も、すぐには言葉を返せなかった。


 この条件は、

 強欲ではない。


 だが、

 受け入れられない。


 それを、

 全員が理解していた。

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