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農民の俺が育てた作物、なぜかドラゴンに跪かれて管理社会が崩れ始めました  作者: 森乃こもれび


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第27話 論点は畑ではなく“影響”

 会議は、畑の話から始まらなかった。


「まず、周辺への影響だ」


 領主が視線を落とす。

 書記官が羊皮紙をめくり、淡々と読み上げる。


「市場での混乱。

 他領からの問い合わせ。

 竜が反応した事例としての記録価値」


 カイルは、眉をひそめた。


「畑は――」


「少し待ってくれ」


 領主は、穏やかに制した。


「畑そのものの話は、後だ」


 その言葉で、

 この場の優先順位がはっきりした。


「今回の件は、

 一つの“現象”として扱われている」


 書記官が続ける。


「再現性があるのか。

 模倣した場合の危険性は。

 前例として残すべきか」


「……作物は、真似して育てられるもんじゃない」


 カイルの声は低い。


「土地も、人も違う」


「承知しています」


 書記官は頷いた。


「ですが、“同様の現象を狙う者”は出ます」


 その言葉に、

 騎士の一人が口を挟む。


「既に、です」


 視線が集まる。


「他領で、

 農民が畑を“聖域”と称して囲った例が出ました」


 カイルは、思わず息を呑んだ。


「……真似だ」


「ええ」


 騎士は肯定する。


「結果は、失敗でした。

 土地は荒れ、

 農民は追放された」


 静かな報告だった。


「だが、問題はそこではない」


 領主が、言葉を継ぐ。


「“真似ようとした”こと自体が、

 すでに秩序への影響だ」


 秩序。


 その言葉が、

 畑から最も遠い場所にあった。


「畑は、

 誰かに真似されるためにあるわけじゃない」


 カイルは、はっきり言った。


「育てる人がいて、

 それに応えるだけだ」


 領主は、ゆっくりと頷く。


「理解している」


 その上で、続けた。


「だが、社会はそう動かない」


 書記官が、紙を一枚差し替える。


「影響は、農業に留まりません」


「宗教的解釈。

 竜信仰との結びつき。

 反管理思想の温床」


 次々と並ぶ言葉。


 どれも、

 畑とは無関係だった。


 カイルは、椅子の背に深くもたれた。


「……それで」


 静かに問う。


「畑をどうするつもりだ」


 領主は、ようやく真正面から見た。


「畑は、中心ではない」


 その答えは、

 正直だった。


「畑が生む“影響”が中心だ」


 その瞬間、

 空気が、わずかに冷えた。


「我々は、

 管理しなければならない」


 領主の声は、揺れない。


「畑を、ではない。

 この現象を、だ」


 カイルは、

 はっきりと分かった。


 ここにいる誰一人として、

 畑を悪く言ってはいない。


 だが――

 誰も、畑を見ていない。


「……話が違うな」


 カイルは、低く言った。


「違わない」


 領主は即答した。


「我々は最初から、

 社会の話をしている」


 その言葉に、

 エルドが、わずかに顔を伏せた。


 彼だけが、

 このすれ違いの深さを、

 正確に理解していた。


「君の畑は、

 もう個人のものではない」


 領主は、静かに宣告する。


「良くも悪くも、

 世界に影響を与えた」


 それは、

 称賛ではなかった。


 責任の宣言だった。


 カイルは、

 ゆっくりと息を吐く。


「……なるほど」


 そして、

 初めて、

 覚悟を決めた顔で言った。


「それなら、

 条件がある」


 会議室の空気が、

 確かに変わった。

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