第20話 管理の、やり直し
領主館の会議室は、静かだった。
怒号もなければ、責任の押し付け合いもない。
むしろ、空気は落ち着いている。
それが、かえって不穏だった。
「……つまり、こういうことだな」
領主は、机に広げられた報告書に目を落としたまま言った。
「過剰だった。
最初の対応が」
誰も否定しなかった。
「見張りの常駐、頻繁な測定、
あれでは畑に“人の意志”を押し付けすぎる」
騎士団長が、静かに頷く。
「農学官からも、
刺激が多すぎた可能性があると」
「なら、引くべきだ」
領主は、はっきり言った。
「だが――」
そこで、言葉を切る。
「放置はできない」
沈黙が落ちる。
誰もが、その続きを待っていた。
「見張りは減らす。
測定も止める」
それは、譲歩に聞こえる。
「だが、完全に手を引くのではない」
ここで、視線が一人の男に向けられた。
壁際に立っていた、白衣の男。
年は五十を越えているが、背筋は伸び、目に曇りはない。
「宮廷魔導栽培士、
エルド・ハーグレンだ」
男は一歩前に出て、深く一礼した。
「畑に敬意を払います」
声は穏やかだった。
「数値も、儀式も使いません。
私はただ、
“場”を整えるだけです」
書記官が、思わず問いかける。
「それで、改善できると?」
「ええ」
エルドは迷わず答えた。
「育たないのは、
育ちにくい“状態”があるからです」
領主は、腕を組んだ。
「奪うつもりはないな」
「もちろん」
エルドは、静かに笑った。
「育てる者から、
畑を取り上げるつもりもありません」
その言葉に、空気が少し緩む。
「介入は、最小限」
エルドは続ける。
「畑が嫌がる前に、引く。
それが、私のやり方です」
理にかなっている。
過去の失敗も、踏まえている。
領主は、ゆっくりと頷いた。
「では、任せる」
決定だった。
「ただし」
領主の声が、低くなる。
「竜を刺激するな。
農民――カイルにも、
無用な圧をかけるな」
「心得ています」
エルドは再び一礼した。
会議は、そこで終わった。
誰もが思っていた。
――これなら、うまくいく、と。
誰もが気づいていなかった。
“管理をやめる”のではなく、
“より洗練された管理”を選んだことが、
何を意味するのかを。
その頃、畑では。
風が、
ほんの一瞬だけ、
止まっていた。
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