第19話 それでも、線は消えない
日が沈み、畑は影に包まれていた。
管理の者たちは、引き上げていった。
判断は保留。
報告は山ほど。
結論は、持ち帰る。
残されたのは、
縄と、杭と、
沈黙だけだった。
カイルは、畑の中央に立っている。
枯れた芽の前。
戻らない場所。
そこに、膝をつき、
土に触れた。
冷たい。
朝とは、違う。
「……悪かったな」
謝罪だった。
畑に対しての。
彼は、縄を見た。
守るために張られた線。
だが、結果として――
遮る線。
切ろうと思えば、切れる。
杭を抜こうと思えば、抜ける。
だが、それをすれば、
人の世界と、真正面からぶつかる。
カイルは、立ち上がった。
「……まだ、早い」
畑に言う。
自分に言う。
その夜、
彼は火を落とした家で、
長く眠れずにいた。
夢を見る。
深い場所。
根が、さらに奥へと伸びている。
だが、その先が――
見えない。
声はない。
言葉もない。
ただ、
「近づくな」
という感覚だけが、はっきりとあった。
目を覚ます。
外は、静かだった。
畑の方角を、窓越しに見る。
縄は、まだある。
「……分かった」
カイルは、小さく頷いた。
「無理は、させない」
それは、
管理に従う、という意味ではない。
かといって、
壊す、という意味でもない。
彼が選んだのは、
“待つ” という選択だった。
だが――
世界は、待ってくれない。
同じ夜、
領主館では、新たな命令書が書かれていた。
件名は、簡潔だった。
《畑の管理方針・再検討》
その紙に押された封蝋が、
冷えて固まる頃。
遠い空の彼方で、
雲が、わずかに裂けた。
白いものが、
一瞬だけ、覗く。
それが竜なのか、
ただの光なのか――
誰も、まだ知らない。
だが、ひとつだけ確かなことがある。
この畑は、
もう「放っておける存在」ではない。
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