第17話 正しい判断
書記官が畑を離れてから、そう時間は経っていなかった。
午後の光が傾き始めた頃、
再び人の気配が増える。
今度は、見張りだけではない。
「失礼する」
声をかけてきたのは、昨日もいた年嵩の騎士だった。
その背後に、書記官が二人。
さらに、見慣れない男が一人いる。
身なりは簡素だが、
腰には測定具、胸には研究紋章。
――農学官だ。
「調査の追加許可が下りた」
騎士は簡潔に告げる。
「収量低下の兆候が出ている。
原因を特定し、改善する必要がある」
カイルは、畑から目を離さずに答えた。
「下がってるのは、
原因を作ったからだ」
「だから、調べる」
農学官が一歩前に出る。
「数値が欲しい。
感覚では、対処できない」
言い方は冷静だ。
敵意もない。
「土壌魔力、含水率、養分濃度……
測るだけだ」
「測られたがってない」
カイルは、静かに言った。
農学官は、一瞬だけ言葉に詰まる。
「……作物に意思はない」
「あるかどうかは知らん」
視線が合う。
「だが、嫌がることはある」
農学官は、小さく息を吐いた。
「それは、錯覚だ。
人間が意味を与えているだけだ」
理屈は正しい。
だから、厄介だった。
「このままでは、
畑は衰退する」
「今は、距離を取ってるだけだ」
「結果は同じだ」
農学官は、測定具を構える。
「手を入れる。
最小限で済ませる」
カイルは、初めて一歩、前に出た。
「やめてくれ」
声は低く、
だが、はっきりしている。
周囲が静まった。
騎士が、視線を走らせる。
「……命令だ」
農学官は、迷いなく頷いた。
「改善のためだ」
その言葉が、
畑に落ちる。
次の瞬間。
風が、止んだ。
畑の上だけ、
不自然なほど、静まり返る。
葉が揺れない。
虫の声が消える。
「……何だ?」
誰かが呟いた。
農学官が、一歩踏み込んだ。
その足が、
土に沈まない。
いや――
弾かれた。
「っ……!」
わずかだが、確かに。
土が、拒んだ。
誰も言葉を発せず、
その場に立ち尽くす。
カイルは、目を閉じた。
「……だから言った」
それは、
警告ではなかった。
事実の確認だった。




