第13話 守るという名の、線引き
昼過ぎ、畑の前に人影が現れた。
昨日の騎士団とは違う。
鎧ではなく、濃紺の外套。
胸元には、領主家の紋章が縫い付けられている。
「カイル殿だな」
使者は、丁寧に名を呼んだ。
礼儀は正しい。だが、距離は最初から決まっている。
「領主様より、正式な通達を預かっている」
羊皮紙が差し出される。
封蝋は、まだ温かい。
カイルは手を洗い、受け取った。
文字を追う。
――安全確保のため。
――第三者の無断立ち入りを制限。
――調査と保全を目的とする。
要点は、そう多くない。
「……人を付けるのか」
「はい。畑の周囲に数名。
あくまで“守る”ためです」
使者は即答した。
「収穫や世話に、支障は出さない」
言葉は柔らかい。
だが、条件は一方的だった。
カイルは、畑を見た。
風が吹き、葉が揺れる。
「荒らさなければいい」
昨日と同じ言葉を、繰り返す。
「それは、約束できる」
使者は頷いた。
その背後で、数人の男が動く。
杭が打たれる。
縄が張られる。
畑の外周に、目立たない線が引かれていく。
カイルは、その作業を止めなかった。
止めても、意味がないことを知っている。
「……ここから先は?」
「許可が必要になります」
「誰の?」
「領主様の」
短い沈黙。
畑が、また静かになる。
朝ほどではないが、確かに――重い。
その夜。
カイルは、久しぶりに夢を見た。
畑の下。
深い、深い場所。
太い根が、静かに脈打っている。
触れれば折れそうなのに、折れない。
声がした。
言葉ではない。
感情に近い、何か。
――線を、引くな。
――分けよ。
――奪うな。
目を覚ますと、夜明け前だった。
外へ出る。
畑の周囲に張られた縄が、薄闇の中で白く浮かんでいる。
「……ああ」
カイルは、小さく息を吐いた。
「嫌だよな」
答えはない。
だが、畑は――もう、昨日ほど応えてくれなかった。
遠くで、誰かが見ている。
近くで、誰かが守っている。
そのどちらもが、
畑にとっては、同じだった。
そして、世界は動き出している。
本人の意思とは関係なく。
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