第八話
季節は春の終わりに差しかかっていた。
科学部の部室では、今日もユウとナナミが机を挟んで座っていた。
ナナミはノートにペンを走らせ、ユウは眠そうに頬杖をつく。
いつも通り。
だけど、ユウの視線は、何度かナナミの顔を横目で盗み見ていた。
「なんか見てる」
ナナミがペンを止めずに言った。
「別に」
「観察者はこっち。立場を侵害しないで」
「いや、なんかさ。最近、お前、前よりよく笑うなって思って」
「感情表出の頻度は確かに微増傾向」
「つまり、俺のせいってこと?」
「因果関係の証明にはさらなるデータが必要」
ユウは少し笑って、顔をそらした。
だが、その笑顔の裏には少しの不安もあった。
「いつまで、こうしていられるんだろう」
そんな言葉が、心の奥で小さく鳴っていた。
その帰り道。
校門でクラスメイトに声をかけられる。
「ユウ、お前さー最近どこ行ってんの?」
「んー、適当に校舎ぶらぶらしてるだけ」
「ふーん。あんま見なくなったし、ちょっと寂しいってウワサ」
「…そうなんだ」
ユウは、曖昧に笑った。
“ちゃんと関係を結んでないこと”に対する後ろめたさが、わずかに顔を出す。
その夜。
ユウはスマホを見つめながら、ナナミに打ちかけたメッセージを消して、
「また明日な」とだけ送った。




