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第五話

その日も雨。

ユウが部室に入ると、ナナミは白衣ではなく、制服姿で椅子に座っていた。

珍しいことだった。


「白衣、どうしたの」

「洗濯中。代えがない」

「……意外と雑だな」

「必要最低限で生きてるだけ」


ユウはそれ以上言わず、ナナミの隣に座る。

制服姿の彼女が、少しだけ“普通の高校生”に見えた。


「ナナミさ、なんで“問い”にこだわるの?」

しばらくして、ユウが聞いた。

「別に、興味本位」


「それだけじゃ、続かないだろ」

「じゃあ逆に。なんで君は、ここに来続けてるの」

「……逃げ場だから」


「私は、答えをもらえるから」

「誰に?」

「問いを立てることで、自分に」


ユウは静かに息を吸った。

それはまるで、鏡を見せられてるような感覚だった。


ナナミもまた、自分と会話するために誰かと話している――

それに気づいた。


「親、どんな人?」

唐突に聞くと、ナナミは少しだけまぶたを閉じて答えた。


「有名な研究者。私のことは、実験材料以下」

「寂しいとか、思ったりしない?」

「その感情には、定義がない。観測できない」


「でも、感じてるんじゃないの」


ナナミは初めて、返答をしなかった。

その沈黙が、何より正直だった。


「……君は、ずるいな」

「なにが」

「問いを返してくる」

「別にいいだろ」

「だめだ、君は観察対象で、私が観察者だ」


ユウはふっと笑う。

「そういえばそうだったな」


ナナミの目が、ほんの少しだけ揺れた。


その日は、いつもの倍くらいの時間、

ふたりは何も話さずに、ただ静かに同じ部屋にいた。


“問いがなくても一緒にいられる”という、

あたらしい関係のかたちが、そこにあった。


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