第四話
翌日。天気は悪く、部室の窓に細かい雨がぶつかっていた。
ユウはいつものようにナナミの隣に座る。
沈黙。機械音。紙にペンが走る音。
変わらないはずの日常。
でも今日は、少し違った。
「今日、クラスで変なこと言われた」
ユウがぽつりと言った。
「『あんたって、誰とでも仲いいのに誰とも仲良くないよね』って」
ナナミは答えない。
でも、ノートに書いていた手が止まる。
「当たってると思う」
「…自覚があるんだね、じゃあ問題じゃない」
「問題かどうかも、もうどうでもいいのかも」
ユウは続ける。
「でも、ここでは――お前と話してるときだけは、
なんか“仲良くしようとしなくていい”から、落ち着く」
「それは、関係と呼べるの?」
ナナミの声は、少しだけ硬かった。
「関係って、ちゃんと作らなきゃいけないもんなの?」
「定義にもよる」
「だったら俺たちのこれは、何?」
沈黙。
「対話」
「それだけ?」
ナナミは口をつぐむ。
そして小さな声で言った。
「“それだけ”で充分だろう」
ユウは、黙ってうなずいた。
言葉にしなくても、
“同じものを感じている”と、はじめて思えた。
「明日も来ていい?」
「来たければ」
「じゃあ来る」
「観察は続けるよ」
「俺も、観察するから」
ナナミは、少しだけ唇をゆるめた。
それは初めて見る、確かな微笑だった。
その瞬間、ユウは気づいた。
この出会いが、自分の中に
「いてもいい」という感覚を生みはじめていることに。
演じないで話せること。
答えが返ってくること。
それが、こんなに安心するなんて思わなかった。




