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第三話

翌週。ユウは、ほぼ毎日のようにナナミの部室に通っていた。

教室では相変わらず“いい人”として振る舞い、

放課後にだけ、“素”に戻れる場所として、理科室にやって来る。


ナナミは特に歓迎するわけでも、拒むわけでもない。

ただ、そこにいる。

いつもの白衣と、観察者の目つきで。


「ナナミってさ。友達いないの?」

ユウは、シャーレを磨きながら尋ねた。


「いない。必要ないから」

「そっか」

「君もいないでしょ?」


図星だった。

でも、嫌な気はしなかった。


「でもさ、ひとりでいるのって、なんか無敵っぽくない?」

「無敵ではない。“誰にも壊されない”という意味では正しいけど、

“誰にも変えてもらえない”という意味でもある」


ユウは手を止める。


「それって、少し寂しくないか?」

「“寂しい”って感情は、人間関係がある前提の言葉」

「…そういう考え方、ラクそうで、苦しそうだな」


ナナミは返さなかった。

ただ静かに、薬品のラベルを貼りなおしていた。


しばらくして、ナナミが口を開いた。


「私は、人間が嫌い。だけど“問い”には興味がある」

「人間の行動、その因果。その仕組み」


「でも、君はそれに反してる」

「どういうこと?」

「説明がつかない。君は、合理的じゃない。

だから私は、たぶん――」


言葉が途切れる。

ユウは言った。


「だから観察したいんだろ?」


ナナミは、ほんの一瞬だけ、うなずいた。


その日の帰り道、ユウは考えていた。


“人が嫌いなはずなのに、俺には話しかけた”

“誰とも関わりたくないのに、質問を投げた”


ナナミの中にも、

自分と同じような“ねじれた願望”があるのかもしれない――と。



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