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記録されなかった最後の会話
三学期の終業式の日。
ナナミの異動が正式に決まった。
研究機関との連携コースに進むため、
次の春から、彼女はこの学校を離れる。
最後の放課後。
ユウは、何も言わずに部室へ向かった。
そこには、すでに荷物をまとめ終えたナナミの姿があった。
白衣は畳まれ、ノートは箱に収められ、
机の上には何も残っていなかった。
「……来たね」
「来るよ、そりゃ」
ユウは静かに机に腰かける。
ナナミは、言葉を探すように目を伏せた。
「最後まで、“関係の名前”は決められなかった」
「いらないよ、そんなの」
「でも、本当は欲しかった」
「俺も」
ユウは、ナナミの方をまっすぐ見た。
「お前がいなくなるの、すげえ寂しい」
「私も」
「でも、それって“終わる”ってことじゃないよな?」
ナナミはゆっくりと頷く。
「“距離”と“関係”は、別の問題だと思えるようになった」
「それ、俺に教えてくれよ」
「これからも、ずっと教えるつもり」
ふたりは立ち上がり、最後のスケッチブックを開いた。
ユウが一言、書き込む。
『離れても、問い続けてる』
ナナミが続ける。
『答えなくても、あなたの声を待ってる』
ページを閉じる音が、
この部屋の時間を、そっと止めた。




