関係にラベルはいらない
文化祭の片づけが終わった夕方。
人気のなくなった展示室に、ナナミとユウが最後に残っていた。
模造紙は折りたたまれ、メモ用紙の束は封筒に入れられた。
「持って帰る?」
ユウがそう言うと、ナナミは少しだけ考えて答えた。
「これは、ふたりで作ったもの。
でも“ふたりのもの”って言葉にするの、少し違和感がある」
「じゃあ、名前つける?」
「たとえば?」
「『無名の共有物』」
ナナミは、ふっと吹き出すように笑った。
「…それ、いちばんナナミっぽくない名前」
ふたりは校舎の外に出る。
秋の風が、少しだけ冷たく感じられた。
「ナナミ」
「なに?」
「お前にとって、俺って何?」
唐突な問いに、ナナミは足を止めた。
そしてゆっくり振り返る。
「君は、“問いを続ける勇気”をくれた人」
「それって、友達?」
「それって、パートナー?」
「それって、好きな人?」
ユウの問いに、ナナミは首をかしげて答えた。
「全部かもしれないし、どれでもないかもしれない。
でも、答えは急がなくていい」
ユウは小さく笑って言った。
「じゃあ、また明日もここにいてくれる?」
「もちろん」
ふたりは肩を並べて歩き出す。
その距離は、もう“測る必要のないもの”になっていた。
タイトル:時間は、誰にも止められない
冬が近づく頃。
ある日、ナナミは呼び出された。
校長室。
特待生枠の再編に伴う通達。
──「来年度、理論科学系の研究室は外部機関へ移行。
成績優秀者には、大学連携の早期研究制度が推奨される」
ナナミのような生徒にとっては、進路の拡張。
けれど、今の“場所”の終了も意味していた。
帰り道。
ナナミはスマホを握りしめたまま、ユウには何も送らなかった。
翌日、いつものように部室に入ると、
ユウがいつものように机に座っていた。
「よ。おそい」
「ごめん」
少しだけ沈黙があった。
ユウがふと聞く。
「お前、なんかあった?」
「……何もなかったことにしていい?」
「それ、あとで後悔するやつだよ」
ナナミは、ためらいながら口を開く。
「来年度、この部屋、なくなるかもしれない」
「……え?」
「研究機関に吸収される。私は移行候補になってる」
「つまり…お前は、この学校を離れるかもしれないってこと?」
ナナミは頷く。
「まだ確定じゃない。でも、可能性は高い」
ユウは机の上のペンをじっと見つめる。
「……じゃあ、あと何回ここで会えるんだ?」
「わからない」
「問い返さないの?」
「今回は…答えるのが怖い」
その日、ふたりは向かい合ったまま、
何も書かず、何も記録せず、ただ“今”を見つめていた。




