問いに、答えは必要ですか?
文化祭当日。
校舎の一角にある“科学部展示室”には、いつもより多くの人が集まっていた。
壁一面に貼られた模造紙。
その中央には、目を引く一文があった。
『間違っても、となりにいたいと思った。』
その下には、小さなポストとメモ用紙。
【あなたの問いをください】
来場者たちは、自由に問いを書き込んでいく。
「大人になるって、なんですか?」
「愛って、なんで不安になるの?」
「一人で生きるって、可能ですか?」
ユウとナナミは、来た問いに対して、即答はしなかった。
ふたりで並んで読み、少しだけ話し、
そして模造紙の下に、対になるような問い返しを書いた。
「『一人で生きられますか?』に対する返答:
“あなたがいま一緒にいたい人は、誰ですか?”」
「『愛が不安になる理由』に対する返答:
“それを失いたくないと思ったことはありますか?”」
ナナミがふと、ユウに尋ねる。
「正直、いまの私はもう、観察してるというより、
“揺れてる”だけな気がする」
「それって、悪いこと?」
「たぶん、普通のこと」
ふたりは並んで、模造紙の隅にサインを書いた。
“問い続けるふたりより”
その展示の前で、ある男子生徒が呟いた。
「なんか、わかんないけど…ちょっと泣きそうになった」
隣の女子が言った。
「うん。“答えがないまま考えていい”って、救われる感じする」
ナナミは、そっとユウの袖を引いた。
「ねえ、ユウ」
「ん?」
「いま、私たち、何してるんだと思う?」
「たぶん、“ちゃんと人とつながってる”」
ナナミは、その言葉に何も返さなかった。
でも、その目は揺らぎのない光を宿していた。




