それでも、となりにいたい
次の日、ユウは部室に行かなかった。
理由を誰にも伝えず、ただ教室に残っていた。
文化祭準備の空気がざわつく中、
クラスメイトが声をかけてくる。
「ユウ、科学部の展示、めっちゃ話題になってるらしいよ」
「ふーん」
「来場者が“答えじゃなくて、自分のことを考えられた”って感想あげてた」
ユウはうなずくだけだった。
でも、胸の奥がちくりとした。
その日の放課後。
誰もいないはずの部室に、ナナミがひとりで座っていた。
手元には、昨日の模造紙。
ユウが書きかけていた言葉が、途中で止まっていた。
“間違っても――”
その先を、ナナミはずっと見つめていた。
夕方。
扉が開く音がした。
ユウが入ってきた。
ナナミは驚いた顔をしなかった。ただ、言った。
「続きを書いて」
「…いいの?」
「“答えがなくても、問いは進む”」
「誰の言葉?」
「君の。たぶん、昨日のままなら」
ユウは、ペンを手に取った。
そして、一言だけ加えた。
“――となりにいたいと思った”
ナナミは小さく笑った。
「不正確。でも、たぶん正しい」
「どっちだよ」
「どっちも。だから、たぶん私も“そこ”にいる」
模造紙の真ん中に、大きく書かれた一文が完成する。
『間違っても、となりにいたいと思った。』
それは、正解じゃない。
でも、それこそが、ふたりの出した“今の答え”だった。




