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ひとりで考える限界

昼休み。

ナナミは一人、図書室の奥で本を開いていた。

読んでいるのは、科学論文でも哲学書でもない。

「問いをつくる技術」と書かれた、教育現場向けの薄い実用書。


ページをめくるたびに、

“誰かに伝える”という前提が前面に押し出されてくる。

独りで完結する問いなんて、本当は存在しないのかもしれない。


その夜、ナナミはスケッチブックを開き、

新しいタイトルを一行目に書いた。


『共同仮説:関係は創れるか?』


その文字を見つめていると、

スマホにユウからメッセージが届いた。


──「明日、部室、ちょっと付き合ってくれない?」


翌日。

部室には、ユウが持ち込んだ模造紙とカラーペンが並んでいた。


「なにこれ」

「文化祭のポスター作り」

「…なんで私?」

「だって、“問いを立てるプロ”でしょ?」


ナナミは呆れたように肩をすくめた。

でも、ペンを手に取った。


ふたりで一枚の紙を囲むのは、不思議な感覚だった。

隣の温度が、紙の上に流れていくような――

それだけで、言葉の色が変わるような気がした。


「ねえユウ」

「ん?」

「私は多分、“誰かと何かを作る”ってことを、

ずっと避けてきた」


「今は?」

「今は――“悪くない”と思ってる」


ユウは笑った。

「それは、最大級の前向き発言だな」


模造紙の真ん中に、ナナミがこう書いた。


『問いからはじまる展示』


その文字は、いつもよりちょっとだけ柔らかかった。


タイトル:言葉がずれる、心がずれる

文化祭準備が本格化する中、

科学部の展示企画にも学校側から注目が集まっていた。


テーマは、

『問いからはじまる対話装置』

来場者が自由に質問を書き込むと、ユウとナナミが“答える”。

その答えは、正解ではなく“思考のきっかけ”になるよう設計されていた。


放課後の部室。

模造紙の前で、ふたりは議論していた。


「この質問、“人生ってなんですか?”ってさ、

答えなくていいんじゃね?」

「質問を無視するのは、対話じゃない」

「でも、答えると“説教”っぽくなるだろ」

「だからこそ、問い返すの。“あなたは何を人生と思ってるのか”と」


言い合いではない。

でも、微妙に温度差がある。


ユウは少し黙ってから言った。


「…なんか、お前、いつも“正しい”方に話を持ってこうとするよな」

「正しさは、安全のための枠組み」

「でも、そこに俺がいる感じ、しないときあるんだよ」


ナナミの手が止まる。


「じゃあ、君は“間違っていてもいい関係”を求めてるの?」

「いや、違う。

“間違っても、そこにいられる関係”が欲しいだけ」


しばらく沈黙が続いた。

ふたりの間にあった模造紙が、

まるで壁のように見えた。


「…ごめん、俺、ちょっと帰るわ」

ユウが立ち上がる。


ナナミは呼び止めなかった。

扉が閉まる音が、静かに響いた。


残された模造紙の真ん中には、

まだ完成していない問いがぽつんと浮かんでいた。



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