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第十四話

ある昼休み。

ユウは教室で、ふと聞き覚えのない名前がクラスメイトの口から出たのを耳にした。


「ねえねえ、今度来る新しい子、めっちゃ頭いいらしいよ」

「全国模試上位常連? すごすぎ」

「しかも、科学コンテストの受賞者だって。ナナミ先輩と同じジャンルっぽいよ」


ナナミ。

その名前が聞こえたとき、ユウは無意識に手が止まった。


放課後、いつものように科学部へ行くと、

ナナミは部室の奥で資料を整理していた。


ユウは言葉を選びながら聞いた。


「なあ、次来る転校生って、知ってる?」

「一応、名前は届いてる。論理物理系の全国優勝者」

「へえ、ライバル出現って感じか」


ナナミは少しだけ首を振った。


「勝負相手ではない。ただ、同じ領域にいる者として、

私の居場所は一部、そちらに明け渡されるかもしれない」


ユウは胸の中に、言葉にできない違和感を覚えた。

“居場所が奪われる”――

それはナナミのことなのに、

自分のことのように感じていた。


「お前、部長やめるのか?」

「そういう話も出ている。

“科学部の顔”として、より適任だと判断されるなら」


「それ、納得してるのか?」

「合理的な判断なら、私は従う」


その言葉は、いつも通りの彼女らしかった。

でも、そこにはどこか“他人事”のような冷たさがあった。


「……なあ、ナナミ」

「なに?」

「それでも、明日もここにいる?」


ナナミは、ユウの目を見た。

一瞬、いつもより長く。


「仮に明日も、私が“ここ”にいたとしたら、

それは合理じゃなくて、選択だと思う」


ユウはその言葉を、胸の奥で反芻した。


新しい風が吹き始めていた。

それは、二人が積み重ねてきた時間に、確かに“揺らぎ”を生んでいた。


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