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第7話イレギュラーな初任務3

 指名から一週間、着任早々おれたちに命令が下った。

 それも防衛大臣からの呼び出しを受けて、だ。


「きみたちには救援任務を受けてもらいたい」


 大臣の話はこうだった。


 場所は北部の隣国と接するエリア、間が悪いことに半日前に起きた土砂災害の影響で取り残された部隊と辺境に住んでいた村民を救い出して来いというものだった。

 戦場にあって村人を守りながらの任務になるそうでほかの部隊では余裕が心もとない。さらには土砂災害の二次被害の懸念と、もと反抗勢力との戦いが沈静化していないことを踏まえて、少数精鋭のうちに白羽の矢が立ったらしい。


   ◇◇◇


 出撃準備に備えて武器や道具の整理に付き合っていると向かいから声がした。


「ダルク、気合い充分だね?」

「当然だろ。ここでの初任務なんだからな」

「ふふ、頼もしいね。ほんと、真面目な人がいる空間なんていつぶりだろ」


 ブラックを匂わせる発言をかましているこの青年はグレン。

 見た目通りの文学好きで、しずかな森のくまさんを思わせる風貌である。

 正直なぜ軍部にいるのかわからないぐらいの好青年である。クセの多いやつばかりなアルビオン班にあって頼もしい常識人であった。


「こいつが真面目ぇ? 冗談だろ、ただの木偶の坊じゃん!」

 グレンの背後からひょっこり顔を出したのはこれまた青年。

 顔立ちは広告塔になりそうな具合に整っているがアルビオン班には別格のやつがいるので比較されると霞んでしまう。本人も気にしてるのか、はたまた純粋に憧れているのか、雰囲気だけでもとそんなスピネルに寄せに行っているところがある。


「身長は僕の方が大きいと思うけど?」とグレンが苦笑いでつっこんだ。

「……っ、と、とにかく、スピネル様の邪魔だけはするなよな! 迷惑かけんな、このド新人が!!」

「はいはい」とおれは適当な返事をする。

「くぅ~~なんだその反応! おまえぜってぇイイ性格してるだろ!?」

「そうかもなー」

 指を突きつけてきた相手に向けて、高い空をみあげながら答えてやる。あ、今雲の形が変わった。あれは狐だな。

「……虎の威を借る狐もあんなふうにうちあげたらきもちよさそうだな、フフフ」

「ちょ、ダルク?」

「おまえっ、何か今よからぬこと考えてただろ!」

「なんでもー?」

 おれは自分がイイ性格をしているのを知っているので黙っていてやる。


 この癇癪(かんしゃく)持ちは、オーランド。自称スピネルの忠犬らしいが、スピネル本人にすら相手にされていないのはどういうことか。

 見た目どおりに繊細な性格をしているらしく、かなりデリケートに扱う必要がある部類のめんどくさいやつなのだった。キレて暴走すると手に負えないから適当にあしらうのがマストだとおれは色々あって悟った。


「ちょっと! アンタは傷病者じゃなくてただの堕落者でしょう!? 包帯まで無駄にして……このこのこのッ!」

「へへ、おじょうちゃんにはオレの色気は早かったかい?」

「ぼくを女扱いすんなー!! アンタの目は節穴なの!? あ、そっかぁ、自分の姿もわかんないぐらい盲目だったのね! ごっめぇ~~ん」


 包帯を腕にこれまただらしなく巻いて出兵を逃げようとしている男はリオン。彼がからかって遊んでいる美少女……な少年はレニーで、見た目に騙されて声をかけると逆に泣かされるタイプの毒舌持ちだ。しっかり者というか強かな子で、軍部の浮ついた男ほど恐れているのだとか。


 リオンはリオンで、上官のスピネルからもサボりを黙認されている不思議な男だった。とにかく荒っぽい問題児ではあるが、こうして班の面々を茶化しては面倒を見()れている。

 あいさつ回りでは初っ端から逃げに逃げられたが、おれがスピネルと一戦交えたとしるやいなや距離感をぐんと詰めてきたのだ。


「あんたがあの参謀長のやつと()り合ったっていう!?」

「いや戦場で敵兵と間違われて斬りかかられただけだから……」

「それでもよく死ななかったな!?」

「ははは。……ほんとに」

 疲労のこもった声から感じるものがあったのか、リオンは大げさに同情してくれた。彼はスピネルと反目しているようで、敵の敵は味方、みたいな構図が出来上がっていた。


 出発前に大臣はおれたちに向けて注意喚起した。

「くれぐれも気をつけてくれたまえ」、と。


 防衛省の人間が忠告するのだから、よほど危険な任務らしいと、気を取り直して戦地までの転移陣の前に並んでいた時だ。


 それにしても後ろが騒がしかったので、おれは振り返った。


「何度も言ってるだろう! ぼくは男だ!!」


 茶化すリオンの態度に不満があるようでレニーはしきりに金切り声をあげていた。

 まあ見た目は美少女のそれだからなーと、気がそれていたせいか、口喧嘩を繰り広げていたリオンの腕が胴体にぶつかったのだ。大方レニーの薄紅色の長髪をいつものようにからかおうとしたのだろう。その腕からレニーは俊敏に逃げた。


 思い切り振られた腕をできるだけ避けようとしたせいでおれは後退した。

 あ、っと思ったときには背中にべつの男の存在を感じながら。


 驚く周囲の反応を最後に、だれかとともに転移陣に入ってしまったのだった。


   ◇◇◇


 こうして転移した場所がなぜかこの無人島で、一緒に入ってしまった相手がまさかのスピネルだった、というわけである。

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