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「夢を叶えるもの」シリーズ

夢を叶えるもの

作者: 山本 2k
掲載日:2023/12/14

僕は小説家だ。

小学生の頃から夢だった小説家だ。

その頃は絶対に出来ないと思っていた。

けど、実際に成功させた。

諦めず、努力したから。努力出来たから。

それには、理由があった。


それは、中学三年生の二学期、夏休み明けだった。


前田まえだ 陽翔はると。金賞だ。おめでとう」

夏休みのチャレンジ課題にあったファンタジー小説を書くというもの。

陽翔はそれに応募し、金賞を取った。

拍手が鳴り響く。

「次、坂口さかぐち 蒼空そら。銀賞だ。おめでとう」

僕もそれに応募した。

だけど、取れたのは五人も受賞するという銀賞。

やっぱり、陽翔には敵わなかった。

これで六回目。

また、現実を突きつけられた。

拍手が鳴り響く。

さっきよりも小さかったような気がした。


その日から、僕は小説を書くのを止めてしまった。


そして、ある日。


「なぁなぁ、蒼空。今度一緒に小説作らねぇか?」

昼休み、突然陽翔にそう言われた。

ちなみに、陽翔は茶色の髪の毛をしたイケメン少年で、女子からも人気がある。

だからなんだって話だが。

「ラブコメのストーリが思いついたから、掲載しようと思うだけど、上手く作れなくてな」

陽翔が上手く作れない?

そんなこと今までなかった。

そんな風に僕が疑問に首を傾げていると、

「実は俺、ラブコメは苦手なんだよな」

と、少し気まずそうに言った。

「蒼空、ラブコメ得意だったろ?」

確かに、僕の作る物語は大体ラブコメだし、読む物語も大半はラブコメだった。

けど、面白いのを作れる自信はない。

だって、もう作るのを止めてしまったから。

そんな心を無視して僕は行動していた。

「分かった。やってみよう」

これはチャンスだ。

この機に、陽翔の物語の面白さを掴むんだ。

そう思った。


「で、最後はハッピーエンドって訳だ」

陽翔家に来た僕は、ラブコメのあらすじを聞いていた。

やっぱり起承転結が凄い。

こんな展開、そうそう思いつけない。

これが才能の差か、と納得していたのに勝手に聞いていた。

「なんでそんなに面白い物語がパッと思いつくの?」

ちょっと八つ当たりが入った。

慌てて撤回する前に陽翔は答えた。

「パッと、じゃないよ。これでも、十種類ぐらいのラブコメを読んで、ラブコメの特徴を掴んで――」

そこから、陽翔がこの物語を考えるまでの道のりが説明された。

僕はそれで、やっと、陽翔の努力が分かった。

確かに才能もある。

けど、僕と陽翔の決定的な差を生み出しているのは、これだ。努力だ。

それがやっと分かった。

「それらをやって、この物語を生み出すまでに、一年はかかった。ほんと、大変だったよ……」

トホホとうなだれる陽翔。

僕なんか、途中で挫折したら、すぐ投げ出してたのに。

陽翔は挫折しても、他の人に助けを求めて、この物語を完結させようとしている。

それは小説家としてみれば、馬鹿なのかもしれない。

わざわざ自分の苦手な物語を作っているのだから。

だけど、僕は、一度作ったら、最後までやり遂げようとする、陽翔の物語への深い思いが、その小説の書き方が、好きだった。

僕の目指すところはそこだな。

と思った。


そして、僕はまた小説作りを再開した。


「蒼空の好きな人って花音かのんだよな?」

「なぜそれを知っている⁉」

それは陽翔家訪問から約一か月がたった、ある日の昼休みだった。

急に僕の教えた記憶のないことを言われた。

正直物凄く焦った。

だって親友の颯真そうまにしか言ってないことだから。

だってその親友が言いふらしていてもおかしくなかったから。

「見りゃ分かる」

よかったような悪かったような。

親友が言いふらしてなかったという点でよし。

見ればわかるぐらいに僕が馬鹿だったという点で駄目。

プラマイゼロ……どちらかと言うと、マイナスか。

……ダメじゃん。

「それでさ、花音に蒼空の作った物語を読んでもらうってどうだ?」

そんな思考を打ち切るように、ちょっと悪い笑みを浮かべた陽翔が言った。

花音――花結はなゆい 花音かのんとは、小学生の頃に仲が良かった銀色の髪を肩ぐらいまでおろした同級生である。

花音に僕の作った物語を読んでもらう?

それって、だいぶ恥ずかしくない?

「いや……ちょっと流石に少しだいぶまずいのでは」

目を泳がせながら、僕は言った。日本語ではない日本語を。

駄目だ。調子が悪い。

「そうやってなんもやんなかったらこのまま卒業するぞ?せめて、なんかしらのアクションをしとけよ」

そう言って、陽翔はどっかに行ってしまった。

う~ん。小説作り以外にも、問題が出来てしまった。

いっそのこと、恋心なんて抱かなきゃよかったのに。


その夜、僕の作っていた物語が完成した。

しかし、いつになっても、その物語を花音に送らなかった。


そして卒業が近づいてきた、ある日。

僕はやっと、花音に物語を送った。


そしてさらに時は過ぎた……。


卒業式、当日。


「お~い!蒼空!」

卒業式が終わって、みんなが帰ろうとしているとき、僕は陽翔に呼ばれた。

「結局、花音には渡せたのか?」

小声でその話をされた。

「一応ね」

それに対して、普通の声で答える。

「評価は?」

「まだ」

僕の真顔の答えに陽翔は目を開く。

まじか……。

と言う顔をしている。

そこから陽翔とは色々話した。

陽翔は満足したようで、笑いながら帰っていった。

最後の別れも、陽翔らしい。

メールもチャットも出来るからそこまで悲しくないんだろうけど。


そこは良かった。

けど、やっぱ僕は小説家に向いていないと思った。

結局、僕は小説家の道を諦めてしまった。


「あ、蒼空!」


そう思ってた。その時は。


「やっと見つけた」

走ってきたのは花音だった。

「最後ぐらい話とこうと思って」

そう言えば、最近は久しく話してなかったな。

だからこそか、色々話す話題は多かった。

「そう言えば、蒼空は小説家を目指してるんだっけ?」

「うん」

と、そう答えたけど、もうなれないだろうな。

もう、作れる気がしない。

何か、自分の中に、自分の心の中に悲しみを詰められた気分だった。

だけど、話はすらすらと出た。

共に笑ったり、共に恥ずかしがったり。

思えば色々な想い出があった。

「じゃぁ、もう帰るね」

花音が言い出した。

「うん。またどこかで会えるといいね」

それも願望でしかないけど。


僕はこの時知らなかった。


「蒼空の書く小説、表現が可愛くて好きだよ!」


花音が帰り際に、叫んだ小さな励ましが、僕の夢を叶えるものだったなんて。

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