恋愛事情と恋愛相談
マコトと話して、アレンに会いに行く決意を固めていた。魔王と同じようになってしまう可能性はあったが、アレンとなら大丈夫だろうという予感もあった。テルペリオンと知り合いだったのもあるが、魔源樹が俺達の魂を奪うのを止めてくれた人物でもあるから。
とはいえ10年も経っているので確かなことは言えない。なので会う前に、どうしてもアリシアとは話をしたい。アレンというより魔源樹と正面から向き合うために必要だと思っているし、アリシアと向き合うこと自体が大切だとも思っている。
恋心が時久の深層心理ではなくアレンのそれだと知ったらどう思われるだろうか。改めて考えると怖くなってしまった。めったなことでは嫌われないという信頼はあるが、この話はどうなのだろうか。出会った頃の気持ちが全て偽りだったかもしれないというんがどう思われるのか想像できなかった。
早く会いたいような、先送りにしたいような、自分の気持ちがどちらなのかわからなかった。でも今日はもう夕暮れ時になってしまったので、デンメスの家に泊まることにした。アリシアは王都にある俺の屋敷にいるらしいので、今日はお預けになっている。
ちょうど食事どきが近付いていたので、食堂の方へ向かう。マコト以外のクラスメートとも話すことになりそうだったが、何か聞かれたときに上手くごまかせる自信はなかった。
「そんなに心配すんなって。」
「んなこと言ってもな。他人事だと思ってさ。」
一緒に向かっていたマコトに励まされる。悪気がないのはわかっていたが、つい嫌味を言ってしまった。普段は他人にこういうことを言わないようにしているのだが、それだけマコトの事を信頼してきているのだろう。
「なぁ、そんなに悩むんならよ。やっぱりみんなで杖を探そうぜ。」
「いや、そのことじゃないんだよな。」
マコトは立ち止まって、首をかしげている。
「じゃぁなんだ?」
「やりたいことがあるって言ったろ?アリシアに会いに行こうと思ってるんだよな。」
「ん?」
「体が魔源樹だって言ったろ?気持ちも混ざってるんだよな。」
「ええ?あ、ああ。そうなるのか。」
そういえば、きちんと説明できていなかったかもしれない。なので深層心理については魔源樹のものになっている事を話した。
「おいおい、マジかよ。それをアリシアさんに話すのか?」
「まぁな。あとココアさんにも話さないとな。」
今度は首を横に振りながら絶句しているようだった。そんな様子を見ていると、少し意地悪な質問をしてみたくなってしまう。
「せっかくだから恋愛相談してくれないか?」
「いや、待てって。ハードル高すぎだろ。」
後ずさりしながら本気で断られてしまう。同じ境遇の人は他にいないし、無理だと思いつつも心のどこかで期待してしまっていた。
「冗談だよ。でも悩む理由はわかったろ?」
「驚かせるなって。そういうのは女子組に聞いた方が良いんだろうけどな。」
「それが出来ればな。」
魔源樹の事はまだ話さないということになっているので、相談しようにも出来ない。だが話していると、なんとなく気が晴れた気がした。
「まぁ、すこし気は楽になったよ。とにかくそういうことだから、他の人には会わないようにした方がいいかもな。」
「だな。なんなら俺の部屋で食うか?」
「そうだなぁ。」
それもありかと思いながら廊下を曲がる。
「あれ?時久君?」
曲がった先にいたのはヨシエ委員長だった。驚いて一瞬戸惑ってしまったが、その後マコトと顔を見合わせた。考えている事は同じようで、この人になら魔源樹の事を話しても大丈夫だろうと思う。
「ちょうどいいところに。」
「えっ、なに?というかココアちゃんは一緒じゃないの?」
マコトと同じように、俺が1人でいることに疑問を持っているようだった。少し思うところはあるが、ここで会えたのはちょうどよかったので話を進めることにする。
「えーっと、ちょっといろいろあってね。」
「テルペリオン様の事でしょ?みんな心配してるよ?」
「それは、悪かったよ。でも一旦大丈夫だ。」
そう言った後も心配そうに見られるのは変わらない。テルペリオンの話をするつもりはなかったし、あまり広げたくもなかった。なので、少し強引に話題を変えることにする。
「テルペリオンの事はさ、一応気持ちの整理は終わってるんだよね。それより、元々の目的って覚えてる?」
「そうなの?元々って、どうやって転移してきたのかを突き止めるんだっけ?何かわかったの?」
思ったより食いつきが良かった。自分の事だから気になったのか、それともテルペリオンの事を差し置いてまで話始めたことが気になったのか。どっちにしても興味津々になっているので、もう引き返せない。ヨシエ委員長になら問題ない、というより黙っていたら逆に何を言われるのかわからない。なので早速、転移の事というよりこの体の事を説明することにした。




