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転移直後のマコトと転移してからのトキヒサ

 「それで、どうなったら話せるようになると思う?」

 「ん?うーん、どうだろうな。」

 マコトにだけ魔源樹の事を教えて終わりというわけにはいかない。今はやめたほうがいいという事になったが、いつまでもこのままというわけにはいかなかった。なので、どうすれば話せる状態にできるのか確認しておきたい。

 「マコトは平気そうだよな。なんでだ?」

 「俺か?俺は、最初から期待していなかったからな。」

 期待とはなんだろうかと思う。はっきり言って、アキシギルでは転移者の扱いが良いとは言えなかった。俺もテルペリオンと出会わなかったらどうなっていたかわからない。だから期待するという感覚もわからず少し考え込んでいると、それを察したのかマコトが補足してくれた。

 「まぁ、時久は1人でこっちに来たんだもんな。俺らは7人もいたから、うーん、なんて言ったらいいんだ?とにかく、みんなゲーム感覚だったんだよな。危機感が無いというか。」

 説明に困っているようだったが、言いたい事は理解できた。というよりも、テルペリオンと行動を共にするようになった俺と同じような感じだったのだろう。いろんなことを、すごく安直に考えていたあの頃を思い出した。

 「マコトは違ったのか。」

 「まぁ、な。」

 続きを聞きたかったが、珍しく口ごもっている。深く聞かないほうがいいかとも思ったが、何か大事なことを聞けそうな気がしたので、思い切って聞いてみる事にした。

 「どんな気持ちだったんだ。」

 「そうだな。死んだって思ってたよ。」

 「え?」

 「だってそうだろ?知らない世界の、それも森の中にいきなり放り込まれたんだぜ?死んだと思うだろ。異世界だワーイ、って感じでみんな浮かれてたけどよ。俺は生きた心地がしなかったし、今でもそうなんだよ。」

 マコトがそういうふうに思っていたとは想像できなかった。この世界で会ったときも転移前と変わらないという印象で、実は話を聞いても変わっていない。想像はしていなかったが、マコトらしいとは感じた。

 「なんか俺と似てるな。俺も初めは生きた心地がしなかったからな。でもルーサさんと会ってから、少しは変わったんじゃないか?」

 「ああ、どうかな?そう言われればそうかもな。」

 「俺もテルペリオンと会ってからか変わったからな。」

 テルペリオンに出会った頃と変わったと言われた事を思い出していた。マコトも気づいていないだけで、ルーサさんの加護をもらって多少は変わっていたのだろう。

 「テルペリオン様ほど頼りにはならなかったけどな。あんまり信用されていなかったみたいだし。」

 「そんなこと言ったらルーサさんに怒られるんじゃないか?」

 「ははっ、違いない。怒られるだろうな。でも、なんだろうな、それでもいいって思っちゃうんだよな。怒ってもらえるって事は、見放されないって事だろ?」

 その感覚はすごく理解できた。テルペリオンの場合は意に沿わない事をしない限りという制約があったが、感覚としては同じものだろう。そしてそれは、すごく大事なものに思えた。

 「同じような状況になれば、みんなもこの体を受け入れられると思うか?」

 「同じ?でもルーサとかテルペリオン様みたいなのって稀なんだろ?」

 「そうじゃなくって、見放されないってわかれば安心できるかなと。」

 ほとんど思いつきのまま言ったので、マコトは意味を理解できていない様子だった。

 「つまりは、地球じゃ俺たちは当たり前だろ?でもここじゃそうならない。そういう意味で、この世界でも俺達が当たり前になれればいいんじゃないかなと。」

 「う、うーん。ちょっと待ってくれ。えーっと、この世界でも人間は当たり前なんじゃないか?」

 「いや、魔力が全くない人間は当たり前じゃない。だから苦労してるんだろ?それにこの体は魔源樹だったみたいだしな。」

 マコトは理解できたようだったが、同時に話の難しさも理解したようだった。ただの魔力がないだけの人間ならそこまでではなかったかもしれないが、異世界の人間の魂を使って復活した魔源樹というのはイレギュラーにもほどがある。

 「なぁ、じゃぁよ。俺らは何なんだ?人間なのか、魔源樹なのか、どちらでもないのか。当たり前になるって言ってもよ、それがわからないと話が始まらないだろ。」

 「そうだな。」

 言っている事はその通りだと思った。得体の知れないものを受け入れてもらうのは難しいだろう。そして、それを知る方法は1つしか思いつかなかった。

 「俺が確かめに行く。でもその前にやっておく事がある。」

 「確かめられるのか?どうやって?」

 教えるべきか少し迷ったが、今さら隠すのは良くないと思い魔源樹の魂が杖の形になって残存していることや、その成れの果てが魔王であることを説明した。そして俺の体の持ち主だったアレンの魂に会いに行くと伝えると、マコトは眉間に皺を寄せてしまっている。

 「それって、大丈夫なのか?」

 「どうだろう?でも、それしか手がかりはないし、俺にしか調べられないだろ?」

 「そりゃそうだが、俺も自分の杖を探すか?」

 「いや、俺だけでいい。」

 「なんでだよ。」

 「アレンの人格はわかってるからな。その体の持ち主はわからないだろ?」

 テルペリオンと知り合いだったというのは大きい。それを抜きにしたとしても、これは自分の役目だと思っていた。


挿絵(By みてみん)

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