旅立ちと旅の目的と
「それにしても、デンメスはよく許してくれたよね。」
「巨人の考えなんてわからなくて当然よ。」
里から旅立つ準備を終え、転移担当のエルフのところへ向かっている。俺1人で出発することになっていて、見送りに来たのはルーサさんだけだった。
反対された時、どう説得すればいいのかと考えていたが、その心配はいらなかった。俺は魔源樹と向き合いたいと、そのために妻の所に帰りたいと言った。理由がどうであれ、捉え方によってはただの甘えにしか聞こえないような選択で、反対されてもおかしくないと思っていた。
「まぁいいじゃない。トキヒサにとっては都合が良いんだから。」
「それはそうだけど。」
正直、拍子抜けしてしまっていたが、考えても意味がないというのもわかっていた。もしかしたらデンメスも違和感を感じていたのかもしれない。それ以上はもう考えないことにした。
「ところで、トキヒサこそよく許したわね。」
「ん?まぁ、そうだね。」
何のことを言っているのかは察しがついた。ココアさんがデンメスと一緒に残ることを許したことを言っているんだろう。デンメスは反対はしなかったが、引き続きココアさんに加護を与えると宣言した。俺は止めようと思ったが、ココアさん自身が加護を望んでいたので尊重しただけだ。なので許可したという表現は、少し違う気もしてた。
見送りにいないのは、デンメスが戦いの訓練に連れ出しているからだった。それ自体はとても心配な事だが、でも本人がやると言っているのだから説得してやめさせるような事はしなかった。アリシアが同じ事をしようとしていたら、なんとかして止めていたと思う。
「彼女自身が望んだことだからね。曲げさせるようなことはしたくないし。」
「なんだか他人事みたいに言うわね。あなた達は夫婦なんでしょ?それでいいの?」
「それは。」
返答に困ってしまった。夫婦といっても、あんなことがあったからであって、本来やるべき事を何もできていない。だから、本人がやりたいと言っていることを止めるのは違う気がしてしまう。
「事情はわかるわ。でもね、トキヒサが積極的にならないと。魔源樹とテルペリオンの事で一杯一杯なのはわかるわ。でもココアだってこの世界に来たばかりであんなことがあったんだから、あなたからアプローチしなさい。」
「わかってるよ。そのためでもあるんだから。」
「ならいいわ。」
ルーサさんのいう事は理解できる。でも、今向き合うのは難しかった。魔源樹の体の事もそうだが、おそらくココアさんの魂を奪った魔源樹はアレンと仲が良かった女性のものだと思うから。
そんなことを考えていながら歩いていると、転移担当が見えてきた。せめて、なるべく早く気持ちを整理しようと思いながら、最後にいろいろと伝えておこうと思い向き直る。
「それじゃ、あとはよろしく。」
「まかせて頂戴。」
「それと、アレンの杖の事だけど。」
「わかってるから、全部まかせなさいって。」
ココアさんの意思を尊重するとはいえ、放っておくわけにもいかないのでルーサさんとエイコムには残ってもらうことになっていた。デンメスが無茶なことをしようとしたら止めてもらうようにお願いしている。
もう1つはアレンの魂と話すために杖をどうやって見つけるかについてだった。会いに行くにしても、杖がどこにあるかわからないと始まらない。ただ、アレンに会う事についてよく考えたが、アリシアに会う以上の覚悟が必要だと考え直していた。
よくよく考えれば、アレンの魂が今どうなっているのかわからない。魔王の言葉を鵜呑みにするわけでは無いが、他の魔源樹と同じように憤っているかもしれない。もしかしたら、体を乗っ取りに来るかもしれない。乗っ取るというより、取り戻すという表現の方が正しいかもしれない。
推測になってしまうが、不安は拭えない。デンメスの手前、会わないわけにはいかないが、杖は見つからないで欲しいのが本音だった。勇気を出して会うべきと言われればその通りなのだが、一段階高い覚悟が必要な事に変わりはない。
「ほら、ボーっとしてないで、行ってきなさい。アレンの事はどうせ最後に考えればいいんだから。」
「そうだね。」
つい考え込んでしまった。気を取り直して出発することにする。ルーサさんの言う通りアレンと会うにしても順番は最後になるのだから、考えすぎても仕方がない事だった。話すことが出来ない状態なのなら、エルフ達が教えてくれるとも思う。
「じゃぁ行ってくるよ。」
「ええ。マコトによろしくね。」
「わかった。」
今度こそ転移を実行してもらう。どういう経緯でそうなったかはわからないが、マコト達は全員デンメスの家に滞在しているらしい。どう切り出そうか考えながら、目的地へ転移した。




