会いたい人と会うべき人
テルペリオンが最後に言っていた事を思い出す。俺がどうなったから安心したと言っていただろうか。1人でエルフの里を歩き回りながら考えていた。
理不尽に耐えた事を褒めてくれた。抗うことも必要だと説いていた。臆病な部分を心配していた。他人を信頼できるようになって安心したと言っていた。俺が強くなったとは一言も言っていなかった。そもそも、他人の力で戦っていたんだから強くなるわけがない。なのにどうして安心できたのだろうか。
「信頼か。」
手頃なベンチに座りながら呟く。信頼だとか、勇気だとか、そんなんで魔王と戦えるのだろうか。どういう事なのか、いつもなら教えてもらえた。でも、今は教えてもらう事ができない。
デンメスに鍛えてもらう事の何に違和感があったのか考える。強くなるために最適である点は間違いなかった。強くなる事自体に疑問を持ってしまったのもそうだが、それだけではない気もする。デュラハンにとどめを刺した腕を見ながら思い悩んだ。
ココアさんと戦うまではやる気に満ちていた。籠手をもらって嬉しかった事を思い出す。何故だろうか?力の差を感じたからではあるが、これもそれだけではない気がした。
拉致が開かないと思い、立ち上がって再び歩き出した。行くあてもなく里を歩いているうちに、ある部屋に辿り着いた。その部屋は、ヨシエ委員長が滞在していた部屋で、アリシアと和解した部屋だった。
「アリシア。」
部屋に入り中を見渡した。どうしてアリシアの事を考えていなかったのだろうか。忘れていたわけではなく少しは考えたこともあったが、深く考える事もしていなかった。この体の事を話す勇気が持てなかった。
「そうか、そうだよな。」
会いに行こう。行かなきゃいけない。窓の外を見ながら、視界が広くなった気がした。魔源樹の体と、ちゃんと向き合わないといけない。心のどこかで、それが一番しなければならない事だとわかっていたのだろう。
今までエイコムと鍛え直していた事は、自分の魔源樹の体と向き合う事だった。でもより強くなる事や、殺す事に慣れるのは少し違うと思う。違和感をかんじていたのは、それが一番大きかったのだろう。
「よし。」
部屋を飛び出しながらつぶやく。やる事は決まった。ここで臆病になって逃げるわけには行かない。受け入れてもらえるのか不安はあるが、信頼して勇気を出して伝えないといけない。
勢いよく歩き出したはいいものの、気になる事があって一度立ち止まってしまった。今アリシアに会ったとして、何を話せるだろうか。ココアさんにすら、まともに本当の事を話せないでいるというのに。
少し立ち止まったが、また歩き出した。会わないといけない事に変わりはないのだから。ただ順番を調整できないかと思案していた。
「話はわかるがよ。それじゃ足りんだろ?」
やりたいことをデンメスに伝えると、予想外の答えが返ってきた。本音を言うとルーサさんと先に話したかったが、それ自体が逃げのような気がしたのでこうしている。それでも一対一で話すと収拾がつかなくなるかもしれなかったので、ルーサさんには同席してもらっていた。
「足りないって?」
「向かい合うべき奴は、もう1人いるだろ?」
もう1人?誰の事かわからなかった。わからない上に、どうして知っているのかも理解できない。無言になってしまっていると、デンメスが呆れたように話してきた。
「ずっとお前と一番だったんじゃねぇのか?」
ずっと、というのはアキシギルに来てからという意味だろうか。テルペリオンはもういないしアリシアはもう目的にしていた。文字通りずっと一緒だった人はいるが、それで合っているのだろうか。
「もしかして、この体の元々の持ち主だったアレンの事?」
「そんな名前だったか。他に誰がいるんだ?」
アレンの事だったらしい。だがどうやって会うつもりなのだろうか。既に死んで魔源樹となってしまっているし、その魔源樹は俺の体になっている。
「アレンはもうこの世にいないから、それは難しいと思うんだけど。」
「魂は残ってるんじゃねぇのか?」
腕組みしながら追及するように言ってきた。そう言われると、魂は杖の形になって残っているはずなので、話すことは出来るかもしれない。だが確証がないので、ルーサさんに目配せして確認してみた。
「えっと、そうね。杖が見つかれば魂と会話は出来ると思うわ。見つかればだけど。」
念を押しているが、俺も杖を見つけることなど出来るのかと考えてしまう。10年も前の事で、大きさの事を考えても難しいと思った。でもアレンと話せるのであれば、話してみたい気もする。
「わかったよ。それじゃ、一通り話し終わったら杖を探しに行くことにしよう。それでいいか?」
「まっ、仕方ねぇな。エルフどもにも好きにさせるように言われちまってるし。いいんじゃねぇか?」
知らない間にエルフが何か言っていたらしい。とにかく行き先は決まった。デンメスがついてくるのかはわからないが。




