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変わらないことと変わるべきこと

 デンメスを説得するのは大変だった。他種族、特にエルフの意見を聞きに行こうと提案する事でようやく納得してもらった。なので、今はエルフの里に向かって馬車で移動している。正確には一番近くにいるエルフの転移担当を目指すことになっていた。

 「でも、なんか安心したな。」

 隣に座っていたココアさんに話しかけられる。前回と違ってデンメスと一緒というわけではなかった。

 「ん?なんのこと?」

 「それは、みんな時久君は危ない奴って言ってたから。敵には容赦しないって。」

 誰から聞いたのだろうか。確かにテルペリオンと共に戦っていた時は敵を殲滅する事は多かった。ただ、決断を自分でする事はなかったので、俺が容赦ないというのは違う気がする。そういう意味だと、頼り切っていたという点が気になってしまった。

 「俺は、最初からそんな大それた事ができる人じゃないよ。」

 「うん、そうだと思っていたから。変わってないんだなって安心したんだ。」

 何気ない言葉で、本心から言っているのだろう。褒めているつもりというのはわかっていた。敵と分かれば殺す事に躊躇しないような、残酷な人間になっていなくて安心しているのだろう。わかってはいるが違う意味にも考えてしまった。本来は、自分で決断するべきだったんだと、他者の言いなりでやっていい事では無かったんじゃないかと。

 「変わるべきだったのかも。」

 「え?どうして?」

 「実感がなかったんだ。今までは魔法でやっていたから、殺している実感がなかった。命を奪うというのが、どういう事なのかわかっていなかったんだ。」

 とどめを刺した腕を見ながら思い出す。初めてこの手で命を奪った感覚を。魔物なのだから、その行為自体に問題がない事はわかっていた。それでも、何も考えずにしていい事ではないと、今ではそう思う。

 「だけどさ、ここは異世界なんでしょ?そんなのわかんないよ。」

 「まぁ、そうだね。ここは異世界なんだよね。でもアキシギルという名前を持った、1つの現実なんだ。俺達は、もっとそれを自覚しないと。」

 説教臭くなってしまった。こんな話をしたいわけではないのだが、流れとしてこうなってしまう。嫌がられているのではないかと様子を伺うが、特に嫌がってはいないようだった。むしろ真剣に考えているように見える。

 「だとしても、わかんないじゃん。大事な事なのはわかるけど。」

 「その通り。アキシギルの事を何も知らなければ、わからなくても当然だ。でも俺は10年もここにいたから、そういうわけにはいかない。」

 だって、そんなのただの言い訳になってしまうから。10年後に来たみんなは知らないですむかもしれないが、10年前に来た俺は違う。今の状況も、きっとその代償なんだろう。

 ここまで話をして、2人とも黙ってしまった。お互いに伝えたいことがあるのに、言葉にできないでいるんだと思う。それでも、しっかりと繋いだ手と手の感覚が言葉の代わりをしてくれている気がした。


挿絵(By みてみん)


 「話はそれだけなのか?」

 エルフの里には思った以上に早く到着した。転移役のエルフに会えば一瞬なので当然と言われれば当然である。到着してからデンメスが強引に話を進めたので、エルフの代表とはすぐに話ができた。案内された部屋の中で、テルペリオンの最期を話してみたのだが、その返答に困ってしまう。

 「これで全部、のはずですが。」

 「いや、そんなわけがない。ドラゴンはそんな半端な事はしない。」

 「それは、どういうことですか?」

 「はぁ。ドラゴンが孤高であるためにどれだけの事をしていると思う?私ですら調べ物程度しか頼まれた事がないのに、お前に頼った事の重大さはわかる。だからこそ、最期に何か言っているはずだ。」

 タメ息交じりに返答された。テルペリオンが最期に話したことを思い出す。最近の俺を見ていて安心したと言っていた、その理由も話していた。よくよく考えれば、むしろそのことを強調していたように思える。

 「最期に話していたのは、俺の事を心配していたって事と、もう大丈夫だろうと思っていた事と、勇気を持てって事だな。」

 「そうか、それで?答えがこれなのか?」

 「えっと、それは。」

 「全く、テルペリオンも浮かばれんな。つまり、悲しみのあまり肝心な事に気付けていなかったのか。鍛え直そうと決断したところを見ると、察してはいるようだが。」

 どういう意味なのか考える。わかりそうでわからない、そんなモヤモヤした気持ちになってしまった。なんて答えようかと迷っていると、隣で話を聞いていたココアさんが前に出る。

 「あの、そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。大事な人を亡くした直後に、悲しんで何が悪いんですか?」

 「そうやって感情的になるのが悪いところと言っている。最期の言葉を、もっとよく考えることだ。」

 もう話すことはないといった雰囲気で、エルフの代表は部屋を出ていく。ココアさんが怒っている横で、俺はテルペリオンに言われたことをよく思い出していた。


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