巨人の目的と巨人の驚愕
「もういいか?」
ニヤつきながらずっと話を聞いていたデンメスが問いかけてくる。やはり、ただ俺に会いにきただけという事は無いようだ。
「ああ、何か聞きたい事でもあるの?」
「わかってるじゃないか。テルペリオンがいなくなったのならちょうどいい。お前、俺と組まないか?」
つまり巨人の加護を得て戦わないかという話だった。デンメスは若い。ドラゴンは巨人と比べて年老いても力が落ちづらいらしいが、それでも若い方が強いことに変わりはない。単純な力比べならテルペリオンよりデンメスの方が強い、これは以前に戦った時にわかっていることだった。でも、
「悪いけど、一緒に戦う気にはなれない。」
「んん?何故だ。そこのガーダンに鍛え直してもらっているらしいが、つまりまだ戦う気なんだろ。」
後ろに立っていたエイコムを指差しながら聞いてきた。昔の事は全く気にしていない様子だが、巨人にとっては取るに足らない事なのだろう。ココアさんの前でこれからやろうとしている事を話すか迷ったが、デンメスが引き下がらない気がしたので全て伝える事にした。
「今回は、自分の力だけで戦おうと思ってるから。鍛え直してもらっているのはそのためだし、誰の加護も貰うつもりはない。」
「ふーむ。」
また顎に手を当てて、今度は前のめりの姿勢で真顔になっている。だが、俺の話を聞いて一番一番反応が大きかったのは別の人物だった。
「時久君、1人で戦うつもりだったの?」
「まぁね。」
「そんな、無茶だよ。テルペリオン様でも勝てなかったんでしょ?」
予想通りの反応をされる。止められるとわかっていたから帰らなかったし、会う気にもなれないでいた。
「ごめん。でもテルペリオンの最期の頼みだから、応えたいんだ。」
「テルペリオンが言ったのか?最期に。」
今度はデンメスの反応が一番大きかった。だが巨人が驚く理由はわからない。どんな頼み事があったとしても、無理だと思う事はあっても驚く事はあるのだろうか。
「そんなに驚かなくてもいいだろ。無茶かもしれないけどさ。」
「おい、お前たちは知っていたのか?」
誰に聞いているのかすぐにはわからなかった。視線を見てルーサさんとエイコムに聞いているのがわかる。隣のルーサさんは変わらずだったが、後ろのエイコムはとても驚いていた。そういえばエイコムにはこのことを話していなかったことを思い出すが、驚く理由はいまだにわからない。
「別にいいんじゃない?無茶だとは思うけど。」
「私は、知りませんでした。まさか、そんな事が。」
とても信じられないという雰囲気だった。無茶なのは自覚していたが、こんな反応をされると少し不愉快になってしまう。
「俺に頼んだのが、そんなに意外なのか?」
「ちげえよ。おいルーサ、まさかドラゴンがどんな奴らか忘れたんじゃないだろうな?妖精は自由、人間は欲望、ガーダンは従順、そうだろ。ドラゴンはなんだ?」
デンメスが興奮気味に種族の特徴を話す。人間が三大欲求から逃れられないのと同じで、他種族もその特徴からは逃れられないものだと聞いたことがあった。ドラゴンの特徴は何かと考えたが、すぐには思い出せない。
「ドラゴンは、孤高な存在ね。」
「だろ?テルペリオンの奇特さは有名だがな、それでも人間に頼み事なんてするか?そりゃどうでもいい事ならするかもな。自分が倒せなかった奴をどうにかして欲しいだと?ありえないだろ。」
さっきから何に驚いていたのか、ようやく理解できた。誰に頼んだとか、そういうことは問題ではないらしい。ドラゴンが他者に頼み事をしたという事実自体に驚いているようだった。
「そうね。」
「おいおい。」
「し、仕方ないじゃない。テルペリオンってドラゴンらしくない所があるから、つい。」
「ん゛ー。」
デンメスが唸り声を上げている。不機嫌そうな顔になっていて、ルーサさんも不安げに見ていた。気になって周りを見渡すと、ココアさんはどうしたらいいかわからないようでキョロキョロしていて、エイコムは深刻そうな顔をしている。
「話がちげえじゃねぇか。ルーサ、詳しく聞かせてもらおう。全部だ。」
「わ、わかったわ。」
「お前は休んでろ。いいな。」
俺も残ろうと思っていたが、先んじて止められてしまう。自分に関わる事なので、話に参加したい気持ちが勝っていた。
「待てって、俺にも関係ある話だろ。」
「だから、もう休めって言っているんだ。何をするにしても、体力が無かったら話にならねぇ。ココア、連れてけ。」
「う、うん。行こう時久君。」
デンメスの迫力に気圧されたのか、それとも真剣な顔に何かを感じたのか、ココアさんは少し強引に俺を引っ張る。




