巨人の供と巨人の戯れ
「こちらになります。」
巨人用の大きな家に案内される。もう夜更けなのに大勢のガーダンが対応している様子が見えた。俺達の姿を確認すると、どこか安心したような雰囲気になり、すぐに中へと案内してくれる。中に入ると、デンメスの巨体が目に飛び込んできた。
「おお、もう来たのか。災難だったな。」
「あ、ああ。」
なぜか上機嫌だった。機嫌が良いこと自体は問題ないのだが、何を考えているのかわからないので逆に不気味にも感じてしまう。
「ふーむ。雰囲気が変わったか?まっ、元気そうで何よりだ。」
「そう見えるか?」
「違うのか?」
「いや、まぁ。そうだね。」
反論しても仕方がないので認めることにする。それにあまり自覚はなかったが、他者から見ればそう見えるのかもしれない。ガーダンはそういう感想を言わないので、今まで気付かなかっただけで、思っている以上に前向きになれているかもと思えた。きっと、鍛錬が順調だからなのだろう。
「いいじゃない、そんなこと。デンメスだったかしら、私はルーサよ。よろしく。」
「んん?お前、妖精と一緒なのか。ようやるな。」
巨人が感心するとは意外だった。妖精の悪い噂はよく聞くが、被害に遭った事もないので実感は無い。当のルーサさんは、諦めているような、少し怒っているような、そんな顔をしている。
「いつもの事だから、別にいいんだけどね。一応、私はイタズラより協力の方が好きなのよ。」
「はっはっは、わかるぞ。俺も他の巨人どものせいで迷惑しているからな。」
デンメスの言い分は理解できなかった。むしろ好き放題やっている側だと思っている。なにせ、ココアさんの事とか、クレアさんの事とか、ハッキリ言って迷惑でしかなかった。文句をこぼしそうになってしまうが、それを察したのかルーサさんに制止されてしまう。
「この話はもういいんじゃない?それより人間と一緒だって聞いたんだけど。」
「そうか?ふん、まあ楽しい話でもないか。その通りだ、お前に会いたいらしいぞ。」
俺の事を指差しながら答えている。どこか楽しげなのが印象的だった。そんなに気に入った人がいたのかと疑問に思いつつ、誰の事を気に入ったのか興味深かった。
「ちょうど来たみたいね。」
ルーサさんが先に気付いたようだった。言われて奥の扉を見ると1人こちらに向かってきている。一瞬、誰だかわからなかったのは遠くて見えなかったからではなく、予想外過ぎて理解が追いつかなかったからだった。そこにいたのがココアさんだったから。
「デンメス。どういうことだ?」
巨人に抗議しながら急いで近づく。無理矢理に連れられているのか、また意識を奪われているのかわからない。どっちにしても無事なのか確認したかった。
「大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だけど。」
「そうか。」
ジッと様子を見てみる。とりあえず怪我のようなものは無く、意識もハッキリしているようだった。安心しつつ振り返ってデンメスを睨みつける。経緯はわからないが、解放の約束をしたはずなのに再び手を出している事が理解できなかった。デンメスは仰け反り気味の姿勢で顎を触り、二やついている。
「ち、違うの。私が頼んだの。」
にらみ合う俺達を見てココアさんが割って入ってきた。2人の間に立ち、2人を制止するようにしている。自分の意思でやっていることのように見えた。
「どういうこと?」
「どうって、心配したんだよ。テルペリオン様が死んじゃったって聞いたから。」
今度は逆にジッと見られながら言われる。怒っているわけでは無いようだが、不満があるという雰囲気だった。デンメスは相変わらず二やついていて、ルーサさんは興味津々といった様子で見てきている。
「それは、悪かったよ。でも本当に大丈夫なの?デンメスと一緒で。」
「うん、もう大丈夫。」
見たところ問題なさそうには見えた。だが昔の事を考えると素直に受け入れられない。再度デンメスを、今度は睨みつけるわけでは無いが見ながら追及するように問いかける。
「何のつもりなんだ?」
「はっはっは。そう警戒するな。お前とテルペリオンで面白い事をしていたではないか。同じことだ。」
要するに、真似事をしたいという事だった。だとしてもココアさんとやる必要は無いように思える。納得できないでいると当の本人から説得された。
「あのね。デンメスさんは転移者なら誰でもよかったみたいなの。それでやりたいって言って、みんなにも反対されたんだけど。私も役に立ちたいから、許して。」
許すも何も無い。ただ強制されているんじゃないかと心配しただけだった。再度ココアさんを見ながら、本人の意思を確認する。目を全く逸らさないところを見ていると、確かに自分で選んだことだと思えた。
「わかったよ。心配だっただけで、別に俺の許可なんていらない。」
「うん。ありがとう。」
感謝されるような事なのか疑問ではあった。とはいえ、あまり掘り下げても意味がないように思える。ココアさんはともかく、デンメスがただ俺に会いに来たとは考えられなかった。




