戦いの決意と戦う理由
「あのね、トキヒサ。敵討ちしたい気持ちはわかるけど。今のあなたには無理よ。」
「敵討ちじゃない。テルペリオンに頼まれたんだ。」
恨みで魔王を倒したいんじゃない。恨みが無いわけではないけれど、理由ではない。テルペリオンに後を頼むと言われた。それに、ただ応えたいだけじゃない。
「それはわかったけど、無理よ。だって、トキヒサにはもう。」
そこまで言ってルーサさんは口ごもってしまう。言いたいことは理解できた。俺は力を借りて戦ってきたのだから、テルペリオンがいない今、出来ることはあまりない。加えて言うと、アレンの体とわかってから格闘技も満足に出来なくなっている。
「いや、俺は戦う。」
「ダメよ、敵うわけないわ。ただの犬死よ。」
ルーサさんの目が燃えているように見えた。絶対に行かせないという意志を感じる。悪いとは思うけれど、俺も譲るわけにはいかない。
「テルペリオンは無茶な頼みをしない。」
「それは、そうだけど。本当に頼まれたの?勘違いしているんじゃない?」
「勘違い?あの状況で魔王の事以外、何を頼むんだ?」
ルーサさんも必死だった。行かせたら死んでしまうと、確信しているのだろう。でも引き下がらない。そもそも無謀な事をするつもりもない。俺は本気で、魔王を倒すつもりでいるのだから。
「ごめんなさい。でもね、よく考えてちょうだい。トキヒサの事を大事に想っているのは、テルペリオンだけではないのよ。」
わかっているさ。そんな事はわかっている。わかった上で魔王に挑もうとしている。無言のブレスレットを見て自分の決意を確かめる。
「ルーサさん、ありがとう。でも、テルペリオンの頼みを1番大事にしたいんだ。だって最期の頼みだったんよ?」
「そうかもしれないけど。どうしてもなの?」
「どうしてもだ。」
即答すると、ルーサさんは考え込んでしまう。決意が揺るがないとわかったらしい。いつの間にか淹れなおされていた紅茶を飲み始める。ルーサさんは紅茶を飲むどころでは無い様子だった。
「わかったわ。しょうがないわね。それじゃ私の加護をあげるから、一緒に戦いましょ。」
「いや悪いけど、それじゃダメだ。」
「な、なんでよ。本当に死ぬ気じゃないでしょうね。」
また即答すると、今度は身を乗り出しながら反論してきた。死ぬ気ではないさ、そう思われても仕方がないかもしれないけれど。でも、ルーサさんの力で戦うのはダメなんだ。
「俺はさ、今まで借り物の力で戦ってきたんだ。アレンの格闘技、魔源樹の魔法、テルペリオンの力。だから肝心な時に何もできない。自分の力で戦いたいんだ。」
「そんなの。しょうがない事だったのよ。」
しょうがない、最初はそうだったのかもしれない。テルペリオンと出会うまでは、アレンや魔源樹の力を使わないと生き延びられなかったかもしれない。でもその後はどうだろう。自惚れていただけじゃないだろうか。
「ルーサさん。俺は、ただテルペリオンの頼みに応えたいだけじゃない。ちゃんと自分と向き合いたいんだ。」
「向き合うって何によ。それに今じゃなくてもいいじゃない。」
「いや、今じゃないと意味がないんだ。第一、他人の力でどうにかなるなら、テルペリオンは俺に頼んだりしないだろ?」
そうだ。テルペリオンが俺に頼んだのには意味があるはずだ。誰かに託せとか、頼れとか、伝えろとか、そんな言い方をせずに俺に頼んだのにはきっと、きっと意味があるはずなんだ。
「まったく。その様子だと、私がいなくても1人で挑むんでしょうね。」
「まぁね。」
ルーサさんはため息をついている。説得しようとしても無駄だと悟ったようだった。
「いいわ。ただし、無謀な事をしようとしたら止めるからね。」
「わかった。よろしく。」
話し終えるとルーサさんも紅茶をすする。当然のように協力してくれるのがありがたかった。でもお互いに何を話せばわからなくなってしまったようで、しばらく沈黙が続いた。
「みんなには話さない方がいいのよね。」
ルーサさんが沈黙を破ってくる。当然だけど、みんなに話す気は無かった。
「そうだね。気持ちが揺らいじゃいそうだから。」
「ふーん。私はいいけど、後で怒られても知らないからね。」
そう言うと部屋の隅で待機していたガーダンの所へ飛んでいき、何やら伝え始めた。怒られる事はわかっている。特にアリシアとココアには後で何を言われるんだろうか。でも2人を信用しているから、怒られるだけで済むと信じている。だから、むしろ安心していることでもあった。




