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冷静な人々と冷静になれない人

 長老の村に到着しテルペリオンの最期を伝えると、落ち着きかけていた様子だった長老の村は再び騒然となる。いつもなら手厚く歓迎してくれるガーダン達も、今日はそれどころではない様子だった。気になることは、誰一人として悲しんでいるように見えないこと。

 「行きましょ。」

 ルーサさんに先導されて、いつも泊まっている家へ向かう。魔王についても早く伝えた方がいいと思っていたが、まだいいと止められていた。もっと面子が揃ってから共有したく、その前に話を整理しておきたいらしい。

 「よし、それじゃ詳しく教えてちょうだい。」

 家に入り床に座る。ルーサさんは目線が同じ高さになるように机に座っていた。世話係のガーダンが紅茶を淹れてくれたが、ゆっくり飲む気にはなれなかった。ルーサさんが無いやら伝えると、ガーダンは部屋の隅で待機した。

 「アイツは、自分の事を魔源樹の王だって。実際、テルペリオンですら手も足も出なかったから、かなりの数の魔源樹の魔力を使えると思う。」

 「王ねぇ。思い上がりにしか聞こえないわね。長老達が倒されてしまっているから、おざなりに出来ないのが悩ましい所ね。」

 ルーサさんは紅茶を飲みながら困った顔をしている。その落ち着いている様子から、危機感を全く感じないのが気になる。長老というのは、その程度なのだろうか?

 「やけに冷静だね。長老が全滅しちゃったのに。」

 「そう見えるかしら?長老といっても、だからといって強いわけじゃないから。ドラゴンのテルペリオンは別格だから、みんな驚いているんでしょうけど。」

 強さの問題なのだろうか。長老というのは象徴として大事にされていると思っていた。ガーダンもルーサさんも、慌てたり困ったりはしているようだが、悲しんではいないように見えた。

 「誰も、泣かないんだね。」

 「え?ああ、そういう意味だったのね。悪いけど、私はテルペリオンと知り合って日が浅いから。ガーダンはそんなことで悲しまない種族だから、気にしてもしょうがないわ。」

 つまり、悲しんでいるのは俺だけなのか。話を聞いて安心した。魔王に対する危機感や、テルペリオンの犠牲の重大さを伝えきれていないんじゃないかと思っていたが、そうではないらしい。単に悲しむ理由がないだけなら、不満ではあるが問題はない。話を戻すことにしようか。

 「ならいいや。勝てると思う?」

 「どうかしら。どんな戦い方をしていたの?」

 「戦い方自体は杖を振るう人間と変わらなかった。軽い一振りでテルペリオンの全力のブレス並みの魔法を放ってきたけど。それと、5つ同時に発動していた。」

 それを聞いてルーサさんは考え込んでいる。俺は飲んでいなかった紅茶を一気に飲み干す。まだ冷え切ってはいなかったが、それでも味わって飲む気にはなれなかった。

 「軽いってことは、まだ余力があったのね。」

 「そうだと思う。」

 「5つ同時って、全て同じくらいの威力だったの?5つが限界なのかしら?」

 「同じだった。5つの魂を使って復活したって言っていたから、5つが限界だと思う。杖も5本までだったし、もっと使えるなら3ヵ月の猶予も作れなかった。」

 1度でも逃げることが出来たのは、6つ目の魔法が無かった事が大きかった。あの後、同規模の魔法を追加で発動されたら、逃げることなんてできなかった。詳しい原理はよくわからないけど、5つが限界で間違いないはず。

 「魂って、トキヒサと同郷の人間の魂って事よね。そうね、それなら5つが限界と考えて問題なさそうね。そもそも魔源樹が人間に戻るだなんて、不可能なことだもの。」

 「そんなにありえないの?」

 「ありえないわね。不老不死を願った人間が、自分の魂をエルフの体に入れて長寿を得ようとしたらしいわ。おぞましい事だけどね。でも動かなかった。体と魂の形は同じじゃないといけないのよ。人間の魂じゃエルフの体は動かせないわ。今回の事は、例外中の例外でしょうね。」

 そんな人間がいたのかと嫌悪するとともに、よく知っていたなと関心する。5つの人間の魂ということは、使える体も5つまでという事らしい。1つにまとまって魔王となったようだが、その点は変わらないのだろう。

 「さっ、話はわかったわ。帰りましょ。みんな待っているわよ。」

 ルーサさんは何故か満足した様子で提案してきた。まだ、やるべきことはたくさんあるはずなのに。テルペリオンに頼まれたのだから。無言のブレスレットを触りながら、やるべきことを再確認する。

 「ルーサさん。まだやることがあるから、帰れないよ。」

 「やること?ああ、今の話なら大丈夫よ。そこのガーダンに伝えてもらえるように頼んでおいたから。」

 最初に何か言っていたのはそういう事かと気付く。でも俺が言いたいことは、そういう事ではない。ルーサさんは不思議そうにこちらを見ている。そういえば、テルペリオンの最期の頼みをまだ話していなかった。

 「テルペリオンに、最期に頼まれたことがあるんだ。後を頼むって。だから、俺は魔王と決着をつけないといけない。」

 ルーサさんの表情が悲しいものに変わっていく。その意味を、理解できなかった。


挿絵(By みてみん)

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