長老の最期と長老の判断
「何があったんだ?」
長老の村に戻ったのはいいんだけど、ずいぶん騒がしいな。妖精の長老の葬儀の後始末の時よりせわしなく動いているように見えるな。
「わからん。その辺のガーダンに聞けばわかる。」
「そりゃそうだけど。」
まぁ、考えても仕方ないし聞いた方が早いのはその通りだな。というかテルペリオンを確認して、向こうから駆け寄ってきているけど。わざわざ聞きに行くまでもなく教えてくれるみたいだ。
「バカな。」
ガーダンに話を聞いたけど、他の長老も魔源樹と戦ったらしい。それで巨人の長老はその場で命を絶たれ、エルフの長老も重症ってことだった。そりゃ再生が早くて倒しきるのは大変だったけど、こっちがやられるほど強くはなかったよな。何があったんだ?
「なぁ、早く会いに行った方が良いんじゃないか?」
「あ、ああ。そうだな。」
テルペリオンも流石に驚いたのか珍しく反応が鈍いな。エルフの長老が手当されている部屋に入る時も、体がこわばっているように見えるな。それでしばらく待って出てきたテルペリオンの表情がすごく暗くって、このところ初めて見る表情が多いな。
「どうだった?」
「少し、遅かったようだ。」
周りのガーダンの様子を見るに、ダメだったのか。
「何があったの?」
「状況自体は同じようなものだったらしい。」
同じか。でも全く同じならこんなことにはならないよな。
「なんで負けたの?」
「よくわからん。単純に魔力量が多かったようだが。」
という事は、かなりの魔源樹を破壊したってことなのかな。一体何本を杖にしたんだろうか。
「魔力量の力押しに敗れたってこと?」
「そうだが、それだけではないようだ。単なる力押しなら命を奪われるような事にはならん。」
それは、まぁそうだな。特にエルフはテレポート出来るわけだから、逃げる手段なんていくらでもあるだろうし。
「まぁ、どっちにしても早めに対応した方が良いよな。」
「その通りだ。今回は私だけで行く。」
え?なんでだ。一緒に行くつもりなんだけど。
「気にしなくても大丈夫だけど。もう仲が良かった人なんていないし。」
「そういう問題ではない。今回は危険すぎる。」
つまり、負けるかもしれないと思っているってことか。じゃあなおのこと一緒に行くべきじゃないのか。
「なんでそんなこと言うんだ?」
「トキヒサが危険を冒さねばならん事ではない。それに万全ではないだろ。」
そりゃアレンの体とわかってから体が思うように動かないのは確かだけどさ、置いて行かれるほど足手まといなのか?
「ちゃんと役に立ったろ。」
「そういう問題ではない。私だけでいいという事だ。他意はない。」
でも、危険だと思っているんだろ。自分も、他の長老と同じ事になるかもしれないって。それが嫌なんだよ。
「一緒に行こう。正直、死にに行くようにしか見えない。」
「私も死にたいわけでは無い。だが、今すぐに対応できるのは私しかいない。」
だからそれが死を覚悟しているようで嫌なんだって。
「放っておくと魔源樹を壊し続けて対処ができなくなるかもしれないって事だよな。」
「ああ。」
「なら、1番の最適手を選ばないといけない。だから俺も行ったほうがいい。本調子じゃないけど、手助けにはなるだろ。」
何がなんでも一緒に行かないといけない。そんな気がするんだよな。
「その目は譲る気がないな。うーむ、仕方がない共に行こう。だが、勝手に飛び出すのは無しだ、いいな。」
「わかっているよ。その代わり置いていくのも無しだからな。」
やけに物分かりがいいのが怪しいけど、とりあえず一緒に行くところまでは決まったな。一応念押しはしたけど、あんまり油断しないほうが良さそうだ。
長老たちが敗れてしまった魔源樹の所へ向かう間、テルペリオンとはずっと無言になってしまった。きっと、考えていることは同じなんだろうな。
「そろそろかな?」
「うーむ、近くに降りるぞ。」
なんだか乗り気じゃない雰囲気を感じる。俺も出来れば行きたくないんだけど、それ以上にテルペリオンを1人にしたくないんだよな。
「トキヒサ、1つ約束して欲しいことがある。」
「なんだ?」
着陸した後に何か打ち合わせるだろうなとは思っていたけど、早速だな。悪いけど、危なくなったら逃げろとか言われても聞く気はないけどね。
「そう警戒するな。前の魔源樹には手加減していたな?今回は初めから手加減して欲しくないということだ。」
「あ、ああ。それはいいけど。」
「今回は問答無用で攻撃してもかまわん。いいな。」
いきなり攻撃してもいいって、それだけ警戒しているんだろうけど、こんなこと初めてだな。
「反対はしないけど、らしくないね。」
「対話はもう十分にしてある。した上であやつらは葬られたのだ。報いなければならん。」
つまり、巨人とエルフの長老が十分に話していたってことか。それなら、納得できなくもないな。




