魔源樹の最期と魔源樹の事
後に残ったのは大きなクレーターだけで、魔源樹の怪物は跡形もないな。ドラゴンのオーラもブレスで消費して、もう維持できないな。
「やはり、トキヒサとして使ってきたものは問題ないようだな。」
「そうだね。」
なんだろうな、すごく空しい気分だ。
「どうした。やはりかつての友を葬るのは心が痛むか?」
「いや、そうじゃないんだけど。」
友ではないし、そもそも最後の怪物の姿は人間には見えないし、心が痛んでいるとかじゃないんだよな。まぁそれもアレンの感覚であって、時久だったら違う気持ちになったかもしれないけど。
「ではなんだ?」
「俺達も同じことになったかもしれないのかなと。」
あの雰囲気、やっぱりあの呪文を唱える前から魔源樹の意識に浸食されていたんだろうな。ドラゴンと妖精だからって敬語で話すのはこの世界の文化だしな。
「心配するな。アレンはあんな人間ではない。彼もある意味でトキヒサと同じ境遇で育った人物だ。それでも、あんな馬鹿な真似はしなかった。」
「他のみんなはどうなんだろうか?」
「知らん。ルーサの方が詳しいだろうな。」
わからないか。ますます何と伝えればいいのかわからなくなってきたな。杖はもっていなかったから、今のところは心配ないんだろうけど。
「私としては、アレンの魂が今どうなっているのか気がかりだがな。杖になっているのだろうが。」
「そうだろうね。でも探し出すのは難しいと思うよ?」
「わかっている。」
もう10年も前の話だからね。そんなに大きいものでもないし、探しても見つからないだろうな。それに、そんな状態で10年も放置されていたってことでしょ?どんなに良い人でも、流石に怒っていると思うんだよな。
「見つけたいのか?」
「気になっているだけだ。探すのは嫌か?」
「正直、会いたくはないな。」
それを聞くとテルペリオンは何故か嬉しそうにしているけど、喜ぶようなことなんて言ったっけ?
「会いたくないか。アレンのことを人間扱い出来るのだな。」
「え?そりゃそうでしょ。」
だって元々人間なんでしょ?一度死んで魔源樹になったらしいけど、だからって人間であることに変わりはないはずだよな。
「その通りだ。余計な心配をしただけだ、気にするな。」
「ならいいけど。でも、俺は知らないことがあまりに多すぎたんだな。」
一番最初は生きるのに精一杯だったけど、テルペリオンに出会ってからは余裕があったはずなんだよな。それなのに人間以外の種族の事とか、どうして地球でできなかった事が出来るのかとか、この世界そのものの事とか、知らないことがあまりに多すぎるんだよな。
「あまり思い詰めることではない。世界は広い、自分の種族の生まれた国しか知らない者などいくらでもいる。」
「そうかもしれないけど、この世界の名前すら知らなかったからね。アキシギルだっけ?」
異世界にも名前はあって然るべきだよな。そんなことにすら気付かなかったなんてな。
「気にする必要はない。名前など象徴にすぎん、知らなかったとて問題ない。」
「うーん、でもアキシギルがどんな世界なのかとか、魔源樹は何かとか、知らないのはマズいんじゃない?」
だから、もっと早く気付けた事にも気付けなかったからな。10年も経って、かつてのクラスメートが次々に来て、それからやっと色んなことがわかったわけで。
「トキヒサは、地球がどういう世界なのか知っていたのか?」
「いや、そう聞かれると困るけど。」
「つまりそういうことだ。地球と言っているが、実際に理解しているのは自分の生まれた土地の事だけのはず。人間とはそういうものだ、寿命が短いからな。」
まぁ、確かに日本の事くらいしか知らないかな。じゃぁ魔源樹は何になるんだろうな。
「魔源樹の事も、わからなくていい事なのか?」
「私ですら知らなかった事をわかるわけなかろう。」
ずいぶん堂々としているな。そういえば長老って言っていたけど、何年生きているんだろうな。というか、あと何年生きられるんだろうか。
「テルペリオンって、おじいちゃん何だっけ?」
「突然だな。老年期ではある。」
「人間で言うと何歳くらいなの?」
「ん?今の人間の寿命は最大100年だったか。となると80だな。」
思ったより年寄りなんだな。80にしてはパワフルに思えるけど。
「じゃぁ、あんまり振り回さない方が良いのか?」
「何故だ?」
「いや、年寄りをこき使うのは良くないかなと。」
「失礼な。そこまで耄碌しておらん。」
少し不機嫌になってしまったな。年寄り扱いは良くないのか、でもこの感じは本当に心配する必要はなさそうだな。
「じゃぁさ、今度はアレンの魂を探しに行かないか?ついでアキシギルの事をもっと教えて欲しい。」
「まぁ良かろう。面白そうだ。」
長い間テルペリオンと2人旅する事はなかったし、俺も同じ気持ちだよ。長老の村を出るときは、なんとなく最後の旅になってしまうような不安があったんだけど、取り越し苦労だったみたいだな。




