戦うトキヒサと闘うドラゴン
10人の元転移者は魔源樹に駆け寄ると何本も破壊してしまって、テルペリオンの鼻息が恐ろしく感じてしまう。
「何が起きるんだと思う?」
「知らん。次は私の番だ、手伝え。」
これは、許す気は無さそうだな。どこまでやる気なんだろうか。
「肩を持つわけじゃないんだけどさ、アイツらって一応魔源樹だろ?」
「その通りだ。だがこの事態は看過できん。奴らは滅ぼす。ルーサも構わんな?」
「え、ええ。仕方ないわね。」
ルーサさんの視線を追うと、魔源樹の様子がおかしいのが見えるな。混じり合っているのか?10人だったはずなのに、今は1つの塊しか残っていない。
「どうなっているんだ?」
「なんでもいい。行くぞ。」
「ちょっと待ってくれ、悪いんだけどまともに戦えないというか。」
「かまわん。今回は力押しだ。」
っと言うとテルペリオンは行ってしまった。力押しって言ってもな。なんとかなる、のか?
「トキヒサ、嫌ならやめてもいいのよ。知っている人たちだったんでしょ?」
ルーサさんは何かを勘違いしているみたいだな。確かに知り合いだし、出来れば助けてあげたいけど。もはやただの木塊になっているし、そもそも考え方が受け入れられないし、どうしても助けたいって事にはならないな。
「大丈夫。行ってくるよ。」
最初から俺にとってはどうでもいい奴らだったからな。時久にとっても、アレンにとってもそれは変わらないし。
「待ったか?」
「全く。」
まだ戦いは始まっていないみたいだな。魔源樹の様子は、なんだあれは?全部集まって、人型になっているけど、全身木の枝で覆われていて不気味だ。巨人、とはだいぶ違うな。かなり大きいし。テルペリオンの2倍はあるんじゃないか?
「力押しって言うけど、魔法には期待できないよ。」
「わかっている。要するにアレンがやったことのないことなら良いのだろ?ドラゴンの体になればいい。」
ああ、あれか。やる気満々じゃないか。
「細かい制御は出来ないかも。場所は変えた方が良い。」
「良かろう。先に行くぞ。」
魔力を練り上げる。ドラゴンの体というより、ドラゴンの形をしたオーラを纏う感じ。初めてやったのは8年前だったか。それから何度も発動してきたな。やがて完成するオーラ。制御は、問題ないみたいだ。テルペリオンが魔源樹の怪物を吹き飛ばしているのが見えるな。俺も行くか。
「ドラゴンめ。何故そこまで人間を嫌う。」
「勘違いするな。お前たちが気に食わんだけだ。」
「何故だ、何故だー。」
テルペリオンは掴みかかってくる怪物を羽ばたいて吹き飛ばしている。さらによろめく怪物に尾を振り下ろし追撃しているが、体格が違いすぎるせいか片腕で弾かれてしまっている。
怪物の上空から急降下する。オーラを纏いながら着弾し、怪物をテルペリオンの方へ吹き飛ばす。そして腕を掴んで動きを止める。
怪物は掴まれた腕を引きちぎりながら拘束から逃れていく。反転しながら残った腕を振り上げ、俺に殴りかかる。
テルペリオンは怪物の頭に掴み掛かり、首筋を噛みちぎる。頭をもぎ取ると、そのまま上空に飛び立つ。空中を旋回しながら勢いをつけ、尾を叩きつけている。
引きちぎれた腕を投げ捨てた俺は、振り下ろされた怪物の腕を受け止める。テルペリオンの尾の攻撃で上半身が壊れかけた。オーラの翼を伸ばしさらに追撃する。
怪物の上半身は崩壊している。だが、壊れた個所から枝が生えていく。腕から生えた枝が俺を捕らえ、頭から生えた枝は上空のテルペリオンへと射出される。
テルペリオンはさらに上空へと飛びながら、風圧で枝を吹き飛ばす。その後、急降下して前足で掴みかかり押し倒す。
捕らえられていた俺はオーラを燃やし、木の枝も焼き払う。怪物が押し倒されるのを確認すると、燃焼させた尾をテルペリオンに当たらないように叩きつける。
怪物は胴体が真っ二つになっているが、ものともしていない。中から次々に枝が生えてきて、周囲を浸食していく。
「なんだこれ、キリがない。」
「面倒だ。塵に還すぞ、いいな。」
「ああ。」
今も木の枝が増えているし、全然止まる気配がないんだよな。本音を言うと、そこまではしたくなかったんだけどな。
怪物は無数の木の枝を射出してきた。俺はオーラの尾で、テルペリオンは翼の羽ばたきで退けながら移動する。
テルペリオンは左側に移動し、地面に爪を突き立てて体を固定する。喉を鳴らしながら力を貯め、胸元が光る。
俺は右側に移動し、自分の体を地面に固定する。オーラをさらに燃焼させ、エネルギーだけを押しとどめる。
怪物は止まることなく木の枝を伸ばしている。ただ、中心部は移動できていない。左右に移動して、同時に怪物に向けてブレスを放つ。
同じドラゴン、同じ魔力、同じ出力。完全に拮抗する2つのブレスは怪物の位置でぶつかり合うが、当然どちらかが勝つことはない。しばらくぶつかり合う2つのブレスの中心にいる怪物は、ブレスが止まるころには一切の塵も残らず消滅していた。




