10年前のあいつらと10年後の自分
なんで?なんでこいつらが。
ちっ毎日のように殴られていた嫌な思い出が。
転移者と故郷の話でもできるかと、ちょっとだけ期待していたっていうのに、
よりによってこいつらか。
「トキヒサ?知り合い?」
「まぁちょっとね。」
知り合いではあるけどね。マイナスの意味での。
というかなんて名前だったっけ?10年も経つと忘れちゃうよね。
「お前、そんな子とどうやって知り合ったんだ?時久の癖に。」
「そんなことどうでもいいでしょ。それより聞きたいことがあるんだけど?」
こんなやつらにアリシアの事なんて話したくもない。
変な目でアリシアを見るんじゃない。
ってどうした?3人で目配せなんかして。
「九十九時久くん。
ちょっと見ない間にずいぶんと態度が大きくなったじゃないか。
もう一度立場をわかってもらわないとね。」
お前、なんだその禍々しい杖は?
それに炎の魔法を発動したのか。どうして?
「なんで魔法を使える?」
「うるせぇ。」
炎を飛ばしてきやがった。魔源樹に当てるわけにはいかない、かき消すか。
この程度なら手拍子するだけでいい。
「はぁ?なんだそれ?」
別に大したことじゃないだろうに。
おいおい、ムキになって炎を連発するなって。
仕方がない、今度は拳圧で消し飛ばすか。
「ちっ。どうなっているんだ?」
「なぁ。あいつは本当に九十九か?」
「なんでだよ?」
「だって、なんか雰囲気が違うし。」
「九十九だろ。」
「いや。俺もそう思っていた。」
おかしいのはお前らだろ。
でも待てよ。こいつらなんで高校の制服を着ているんだ?
まさか10年も留年を?ってそんなわけないか。
まさか、こいつらは。
「質問があるんだけど、君たち高校生?」
「あぁ?当たり前だろ?なに言ってんだ、お前。」
「そういうことか。」
つまり10年前と同じ年齢ってわけね。
どういう原理かわからないけど、
こいつらは10年後にタイムスリップしながら異世界に転移したらしい。
いや、逆に俺が10年前にタイムスリップしていたのか?
まっどっちでもいいか。
「おい九十九。どういう意味だ。」
「俺がこっちに来てから、もう10年経っている。そういうことだ。」
「あはっ。なんだそれ?つまり10年分のハンデがあるってことか。上等じゃねぇか。」
とか言いながら、また炎を作るんじゃないよ。しかもさっきより大きいし。
でも無駄なんだよな。そんな未熟な魔法なんて、拳圧だけで十分。
「ちっ。なんでだよ。あれ?なんも出ねぇぞ。」
魔力切れか?杖をただ振り回していやがる。
ん?杖を捨てた?って魔源樹に駆け寄ってどうするつもりだ?
まさか、こいつ、魔源樹を壊してさっきの杖を作ったのか。
「おい、やめろ。」
「うるせぇ。」
「ダメ!!」
アリシア!?飛び出したら危ないって。
「なんだ?このアマ。邪魔だ。」
「アリシア!!キサマ!!」
やりやがったな、あいつ。
魔源樹から直接魔力を吸いだして、アリシアに炎を放ちやがった。
「アリシア?大丈夫か?」
「うん。ご、めん、ね。」
アリシアは地面に倒れこんでしまって、抱え起こして確認したけど一応大丈夫そうだな。
でも気絶してしまった。とっさに障壁を張ってアリシアを守れたからいいものを。
アリシアが怪我したらどうしてくれる?
それであいつは?くそっ。魔源樹は破壊されてしまったのか。
またあの禍々しい杖を握っていやがる。
「なんだよ。九十九の癖に格好つけやがって。」
「なぁ。今のはちょっと。」
「はぁ?別にいいだろ。九十九なんだし。」
「いや、そうじゃなくて。」
「もう行こうぜ。九十九に構っていたってしょうがないだろ?」
「ふん。それもそうだな。じゃぁな。」
散々やっておいて、なんだその言い方は。
どうする?追うか?でもアリシアを放ってはおけないし。
仕方ない、マーキングだけにしておくか。
「テルペリオン。マーキングできるか。」
「もう済んでいる。」
流石、テルペリオン。頼りになるね。
それじゃ、アリシアが起きたら一旦戻ろうか。
「それにしても、あいつらなんで魔法を使えたんだ?」
「あれは魔法ではない。」
「え?そうなの。」
「魔法というのは祖となる存在から力を借りるものだ。あのように祖を冒涜するようなものは、現象としては似ていても魔法ではない。」
「ふーん。」
「それとトキヒサ。あいつらを追わなかった理由は考えておいた方が良い。」
「どうして?」
「この世界の住人は、魔源樹に仇なすものを放っておいたりしない。
たとえ愛する者のためであってもだ。」
「そうだったね。わかった。」
どうしても、そのへんの感覚は言ってもらえないとわからないんだよな。
理由ね、そうだな。リンク用のブレスレットが古くて壊れたからにしようか。
テルペリオンに伝えると、なら壊してしまおうなんて物騒なことを言い出しやがった。
それで本当に壊しちゃうし。
古くなっていたのは本当だから問題ないけど。
さて、テルペリオンが来てくれるっていうから、
それまでアリシアを介抱して待っているかな。
先日、本作品で初めてのブックマークをいただきました。
お読みいただきありがとうございます。